研究実績の概要 |
難聴に対する遺伝子治療をヒトへ臨床応用するためには内耳が成熟した状態のマウス、すなわち成体マウスでの治療実績が不可欠である。しかし幼若マウスとは異なり、内耳を含む側頭骨が骨化するため、手術手技が煩雑になることや、また既知の方法では遺伝子導入効率が不十分となり、かつ聴力への影響が報告されてきた。研究代表者は、平成28年から30年までの約2年半の米国アイオワ大学での研究留学で従来困難であるとされてきた成体マウス内耳への安全な遺伝子導入法を確立した(Yoshimura et al., 2018)。しかし使用したAAVはわずか2種類であり、また内有毛細胞に限られていた。AAVはセロタイプに応じて標的細胞が異なることが知られており、将来の遺伝子治療を念頭に他の細胞(外有毛細胞、支持細胞、ラセン神経節細胞など)へ効率良く感染するAAVを明らかにすることができれば遺伝子治療でターゲットすることのできる原因遺伝子が拡大することができると考えられる。本研究では、多種類のAAVセロタイプを成体の野生型マウス内耳へ局所投与する。具体的には成体マウスに対し、手術により一側のみにAAVベクターを投与し、対側をコントロールとして聴力および内耳形態の変化を検討する。投与後2週間後に聴力を測定後にマウスを安楽死させ、側頭骨を取り出し固定する。蝸牛、前庭ともに顕微鏡下にダイセクションし、ホールマウント、および凍結切片標本に対して免疫染色を実施する。共焦点レーザー顕微鏡にて観察し、各細胞における導入効率を明らかにすることを目的とした。AAV1、AAV2、AAV8、AAV9、Anc80をそれぞれ局注し、結果として、AAV2が最も高効率に内有毛細胞、外有毛細胞へ遺伝子導入を可能とし、またコントロールと比較して、聴力レベルも有意差がなく、安全なAAVセロタイプであることが明らかとなった。
|