研究課題
本研究では頭頸部がんの新規の治療標的の探索を目指してAEBP1に注目して研究を進めてきた。我々はこれまでにAEBP1が大腸がんの腫瘍間質で発現が亢進し、腫瘍血管新生を誘導することで腫瘍増殖に関与することを明らかにしてきた(Cancer Sci)。AEBP1の頭頸部がんの腫瘍間質における機能を解明し腫瘍増殖のメカニズムを明らかにすることをも目指した。舌がんの臨床検体50例の免疫組織染色ではAEBP1が腫瘍細胞や正常間質には染まらず腫瘍間質の特に細胞外基質に強く染まることが明らかになった。この結果はがん細胞株や臨床検体より採取したがん関連線維芽細胞 (CAF) を長期培養し様々な機能解析実験を行った。コラーゲンゲルを用いたがん細胞の浸潤実験ではCAFのAEBP1をノックダウンした場合がん細胞の浸潤が優位に抑制されることが分かった。またCAFから分泌されるAEBP1タンパクががん細胞のEMTを誘導することが分かった。またCAFから分泌されるCXCL12というケモカインを分泌しがん細胞の増殖や腫瘍血管新生を誘導することが知られているが、AEBP1をノックダウンさせたCAFではCXCL12の発現が減少することが発現アレイ解析から明らかになった。一方、CAFのAEBP1を過剰発現させるとCXCL12の発現が亢進することからAEBP1がCAFのCXCL12の発現制御に関わることが示唆された。CXCL12は免疫細胞の誘導に関与することが知られているが、腫瘍組織においてAEBP1陽性CAFとCD8陽性細胞の分布が顕著に逆相関するためAEBP1の存在がCD8陽性細胞の動員を制御するメカニズムの存在が想定された。これらのことからがん細胞と間質の相互作用のメカニズムにおいてEMT誘導と免疫細胞動員の2点に焦点を絞り今後の研究を進めることとした。
2: おおむね順調に進展している
腫瘍細胞に対するAEBP1の影響を確認することができた。CAFにおける内在性AEBP1のはたらきを発現アレイで評価し、CXCL12の発現制御に関わることを示した。AEBP1と免疫細胞の腫瘍組織内の分布についての知見を得た。
EMTについてがん細胞とCAFの共培養実験系を使用して蛍光免疫染色などによる細胞レベルで確認する。AEBP1のCXCL12の発現制御についてはNFkBなどAEBP1が関与するシグナルについてリン酸化を標的としたウエスタンブロットやレポーターアッセイ系を構築して検証していく。またその他の免疫細胞動員に関わる遺伝子・タンパクとの関係についても探索する。
AEBP1の機能解析では当初予定よりも少ない物品費で実験が遂行可能であった。また研究代表者が自ら実験を行うことができたため、実験補助員の謝金が不要となった。AEBP1のシグナル伝達に関与するメカニズムの解析に必要な物品費、実験補助員の謝金、成果発表などに研究費を使用する計画である。
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Clinical Epigenetics
巻: 11 ページ: 70-82
10.1186/s13148-019-0668-3