研究実績の概要 |
頸動脈小体腫瘍(Carotid Body Tumor; 以下CBT)は稀少な遺伝性腫瘍である。その根治法は大量出血・頸動脈損傷のリスクを伴う手術のみである。さらにCBTの約5%を占める転移を伴う症例は根治法がなく予後不良である。CBTの病態解明は、手術治療が困難な症例に対する新規治療方針の糸口として重要である。その病態に関わる因子の一つとして、SDHx遺伝子変異がCBT症例に認められる。SDH機能不全はHIF-1αの細胞内蓄積を引き起こす事が知られており、HIF-1αがVEGF/VEGFR系などの血管新生因子の発現への関与が指摘されている。 慶應義塾大学病院で診療しているCBT30例について生殖細胞系列DNAを採取し、その遺伝学的検査を行った結果、11例に病的意義を疑うバリアントを検出した。うち5例はSDHB遺伝子、4例はSDHD遺伝子、3例でSDHA遺伝子に存在した。特にSDHA遺伝子については日本人で初の報告である。我々はこの研究成果を国内外で報告した[人類遺伝学会第63回大会. 2018][AAO-HNSF annual meeting. 2019]。 また、頸動脈小体腫瘍(CBT)の遺伝子SDHB variantを原因としたCBTの遺伝子型・表現型関連を分析することで、遺伝学的検査によるCBT症例の表現型予測の可能性を検討した。SDHB truncating variantはCBTの転移や下位脳神経障害の頻度を高める可能性が示唆され、治療ターゲットとなりうると考えられた。この研究成果を論文として報告した。(Yoshihama K,et al. Clinical Genetics. 2023)
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