研究課題
頭頸部癌は世界で6番目に多い悪性腫瘍であり、その中で下咽頭癌は2割弱占める。下咽頭癌の進行癌では咽喉頭摘出術による失声、放射線化学療法による副作用などの治療の困難さがあり、5年生存率も50%程度で予後不良である。反対に下咽頭癌早期癌の場合、内視鏡切除が可能で、5年生存率も95%程度と予後良好である。下咽頭癌は早期か進行かでQOLと予後が全く異なっており、いかにして早期発見するかが課題となっている。下咽頭腔は平常時はほぼ閉じており、常時粘液が貯留している。内視鏡観察が難しく、症状も出にくいため、下咽頭癌の早期発見は困難である。患者は咽喉頭異物感を主訴に耳鼻咽喉科外来を受診するが喉頭内視鏡検査では見落とされる事も多い。この時点で全例に対して入念な上部消化管内視鏡検査を行えればよいが、同症状の患者は多く存在するため医療経済的な観点から現実的ではない。そこで耳鼻咽喉科外来の段階で使用可能な早期下咽頭癌スクリーニングのツールが必要と考えられる。最近口腔癌で唾液によるLiquid Biopsyが研究されている。唾液中の循環腫瘍細胞(CTCs)、循環腫瘍DNA(ctDNA)、エクソソームmiRNA、タンパク質などの研究が進んでおり、すでに実用化されているものもある。今回の研究では下咽頭でも同様に精査可能か検討するための研究である。まずは下咽頭癌と診断された患者に対して、唾液採取、下咽頭粘液採取し、癌細胞特有のDNA、RNA、タンパク質の発現について精査する。発現を確認できた場合、覚醒時のうがい液や痰からも採取し、より簡易な採取方法を模索する。この研究により簡易な検査で下咽頭癌の早期診断が可能になれば、医療費削減だけでなく、患者の利益、しいては公益に資する可能性がある。
3: やや遅れている
下咽頭癌の早期診断のためには、遺伝子だけではなく、口腔癌で研究の進んでいるたんぱく質の測定まで範囲を拡大することが重要である。例えば解糖系の発達した癌細胞に多く存在するLDH測定などである。測定項目を元々申請していた遺伝子だけでなく、たんぱく質にも広げたため、再度集積方法や測定方法などを検討し、倫理審査提出の段階である。しかし倫理審査がCOVID-19の影響で完全に停止したため、現在は研究がやや遅れていると判断する。
下咽頭癌扁平上皮癌の遺伝子検査だけでなく、たんぱく質など検査対象を広げる。また採取する検体を下咽頭粘液だけでなく、簡易に採取できる唾液、血液からも測定を試みる。できるだけ患者の侵襲が少なくするため、一度に多くの検査をできるように、準備や体制を整えてから早急に検査に移行する。
初年度は研究の準備に費やし、次年度から本格的に研究を進める予定である。次年度使用額と合わせて、次年度に遺伝子解析費用、ELIZA法でたんぱく質を測定するためのキットを購入予定である。
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Auris・Nasus・Larynx
巻: 46 ページ: 609-617
10.1016/j.anl.2018.10.021
耳鼻咽喉科展望
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