研究課題
唾液腺癌は全頭頚部癌の5%未満と稀であり多くの組織型が存在する。治療は手術加療が基本で,確立された有効な化学療法がなく新たな治療法が望まれている。多機能新規3細胞間タイト結合分子angulin-1/LSRは、正常細胞の上皮バリアの維持だけでなく、その発現変化は様々な癌の悪性化への関与が考えられる。一方転写因子であるp63は、p53がん抑制遺伝子ファミリーの1つで、上皮の分化だけでなく一部の癌の悪性化にも関与がみられている。唾液腺癌においてもp63陽性前駆細胞由来唾液腺癌が知られている。そこで今回我々は、ヒトp63陽性唾液腺管癌細胞株(A253)を用いて、癌の悪性化に密接に関与がみられるタイト結合分子の変化に焦点を当て新規病態解明と治療法の基礎的研究を行った。まずsiRNAを用いてA253細胞のp63の発現低下させた結果、DNAアレーにおいてチュブリン結合タイト結合分子であるCingulin (CGN)およびCGN結合タイト結合分子ZO-3の著しいmRNAの亢進がみられた。免疫染色では、核内のp63発現低下細胞でCGNとZO-3の膜への誘導がみられ、電顕的にもタイト結合構造物を認めた。この変化はTGF-β阻害剤やJNKシグナル阻害剤の同時処置によりさらに亢進した。さらに抗腫瘍作用をもちp63の発現を低下させることができるHDAC阻害剤処置によっても同様の変化がみられた。いずれの処置によりp63の発現低下細胞の増殖能および細胞遊走は低下していた。細胞外フラックスを用いてミトコンドリア呼吸能を測定した結果、p63の発現低下により呼吸能の亢進がみられた。以上より、p63陽性唾液腺癌においては、p63/TGF-β/JNKシグナルを介したangulin-1/LSRを始めとしたタイト結合分子が癌の悪性化抑制に関与し、治療的にはHDAC阻害剤およびシグナル阻害剤が有用と考えられた。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
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