研究課題
本研究では発癌作用を持つ薬剤4NQO(4-ニトロキノリン-1-オキシド)に着目し、新たな口腔癌モデルマウスを樹立し、腫瘍溶解ウイルスHF10の抗腫瘍効果を検討した。4NQOを4週間、C3Hマウスの舌に局所投与し舌腫瘍を誘導した。腫瘍を採取し評価すると、CK14、p63は陽性であり、組織学的にも扁平上皮癌の所見を認めた。この腫瘍よりマウス舌扁平上皮癌細胞株(以下NMOC1細胞)を樹立した。さらにNMOC1細胞をマウスの舌に接種すると、接種後7日以内に腫瘍が形成され、経時的な増大も認めた。まずin vitroにおけるHF10の抗腫瘍効果を検討したところ、NMOC1細胞にてHF10は良好に増殖し、また良好な殺細胞効果を示した。続いてNMOC1細胞を用いた舌癌マウスモデルを作成し、HF10の抗腫瘍効果を検討した。NMOC1細胞をマウスの舌に接種し舌腫瘍を作成し、舌腫瘍内にHF10を接種したところ、HF10治療群はコントロール群と比較して、腫瘍成長の抑制効果や生存率の改善を認めた。HF10の舌腫瘍への感染を確認するため、GFP遺伝子を組み込んだHF10を腫瘍に接種し蛍光顕微鏡で観察したところ、舌腫瘍内にのみGFPの発現が認められ、HF10が舌腫瘍特異的に分布していることが確認できた。最後にHF10治療により誘導された腫瘍内浸潤リンパ球を評価するため、HF10接種後に舌腫瘍を採取し、病理組織学的に評価した。HF10治療群では腫瘍細胞の壊死を認め、その周囲にCD8陽性T細胞が浸潤していた。今回、我々は新たなマウス口腔癌細胞株を樹立し、また舌癌マウスモデルを確立した。また口腔癌モデルにおけるHF10の治療効果を評価したところ、in vitro、in vivo共に良好な抗腫瘍効果を認めた。さらに腫瘍内浸潤リンパ球の変化を認めており、HF10による抗腫瘍免疫の増強が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
口腔癌マウスモデルの樹立とマウスモデルにおけるHF10の治療効果について評価を完了し、その内容について論文作成を行った。論文はMolecular Therapy Oncolyticsに投稿・受理され、現在掲載も完了している。
今後は尾静脈より口腔癌細胞株(NMOC1細胞)を接種し肺腫瘍モデルの作成・樹立を検討している。そして上記記載の口腔癌マウスモデルの手法を併用することで、口腔癌・肺転移モデルの作成を試みる。モデルを樹立できたら、口腔腫瘍にのみHF10 による治療を行い、非治療の肺腫瘍(遠隔転移を想定)に対して抗腫瘍効果(抗腫瘍免疫の誘導)が認められるかを検討する。またHF10治療後の腫瘍を採取してリンパ球を抽出し、フローサイトメトリーを施行することで、腫瘍免疫を担う細胞群や制御性T細胞(T-reg)やMDSCなど腫瘍免疫を抑制する細胞群の構成を評価する。また治療後の腫瘍の一部を切離し、蛋白を抽出し、組織内に誘導されたサイトカインを検討する。それらによって、HF10により誘導された抗腫瘍免疫を検討する予定である。
本年度は口腔癌マウスモデルの樹立やマウスモデルを用いたHF10の治療効果の検討を中心に行ってきたが、HF10により誘導された抗腫瘍免疫の評価は全て施行することが出来ず、そのために計画していた経費は次年度に使用する予定としている。次年度は舌癌・肺転移モデルの作成や、モデルを作成後にHF10により治療を行い治療後の腫瘍を採取してフローサイトメトリーや免疫染色を施行することでHF10により誘導された抗腫瘍免疫の評価を行う予定である。経費としては実験動物(マウス)・実験器具、麻酔薬。細胞培養液・細胞培養実験器具、免疫染色やフローサイトメトリーの抗体などの試薬として使用する予定である。
すべて 2020
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Mol. Ther. Oncolytics
巻: 20 ページ: 220-227
10.1016/j.omto.2020.12.007.