研究課題/領域番号 |
19K18779
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
的場 拓磨 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 助教 (40790712)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / 頭頸部癌 / 抗腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
制御性T細胞は、腫瘍(癌)に対する免疫を含め様々な免疫を抑制する。一方、頭頸部癌は主に口腔、咽喉頭に発生する癌であり、近年増加傾向にある。私たちは頭頸部癌における制御性T細胞の特徴を見出すため、その表現型や遺伝子発現などを解析した。 その結果、頭頸部癌組織において制御性T細胞の割合が増加しており、多くの制御性T細胞が免疫抑制にかかわる分子を発現していることを見出した。さらに、遺伝子発現解析によってそれらの制御性T細胞に特徴的な遺伝子発現パターンを発見した。多くの高発現な遺伝子は、細胞増殖や細胞周期に関わる遺伝子であった。そのことから、制御性T細胞は頭頸部癌において活発に増殖している状態であると考えられた。 このような頭頸部癌における制御性T細胞の特徴は、その他の免疫担当細胞や周囲環境によりもたらされるものと考えられる。免疫担当細胞の表面に発現する分子、特に制御性T細胞の働きをコントロールするような分子の発現を探り、他の癌と比べて特徴的な分子発現をしていることが示唆された。 また、頭頸部癌に浸潤する制御性T細胞において高発現であった遺伝子が、実際の分子発現や増殖に関わっているか、遺伝子の強制発現などの手技を用いて確認し、解析した遺伝子の中から特に重要と思われるものを絞り込んでいる。 制御性T細胞の抑制機能が高く、またそういった細胞が増殖していることで、抗腫瘍免疫は抑制されてしまっており、癌の進行に有利に働いてしまう。そのため当研究において、このような特徴をもたらすメカニズムをさらに調査することは治療ターゲットを見出す上で非常に有意義だと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
はじめに、フローサイトメトリーやRNAシークエンス解析などに用いる検体(ヒト頭頸部癌組織)の確保はとても順調に進んでいる。耳鼻咽喉・頭頸部外科において、関連病院からの紹介も増え癌の症例数は十分な数が保たれており、手術件数も増加傾向である。研究代表者が執刀医となることも多く、同意を取得して手術検体の一部をいただく手順が確立している。 フローサイトメトリーについては、免疫学教室において抗体の種類や組み合わせなどの方法を学び、特に腫瘍に浸潤する制御性T細胞の解析については滞りなく行える。研究協力者のいる大阪大学において多色フローサイトメトリーによる解析も行っており、貴重な検体も効率よく解析をすすめることができる。 遺伝子発現解析については、研究協力者による強力なサポートもあってRNAシークエンスとそのデータ解析を行うことで、頭頸部癌における制御性T細胞の遺伝子発現の特徴を見出した。さらに既にあるデータから、別の抽出条件を用いて発現変化のある遺伝子を特定することを行っており、追加解析することで新たな特徴を見出すことができる。またRNAシークエンスデータの症例数を増やすために、リンパ球数などから解析に適した検体を選別しており次のシークエンス解析の備えができている。また、他の免疫担当細胞についても、どの細胞のどういった集団を解析するべきかを検討して徐々に絞り込みつつあるため、他の免疫担当細胞の遺伝子発現解析の準備もおおむね順調に進んでいる。併行してin vitroにおいて遺伝子の導入、発現の確認をしており、メカニズムの中心となる分子の特定を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は頭頸部癌に浸潤する制御性T細胞の特徴について、いかにしてそのような特徴を発現するようになるのかを中心に研究を進めていく方針である。制御性T細胞自身で起こっている変化については、既に行ったRNAシークエンスデータの解析から発現変化のある遺伝子をさらに検索していき、またフローサイトメトリーを行って分子の発現も確認していくことで、免疫抑制能のある制御性T細胞が増殖しているメカニズムを探る。実際に遺伝子発現の変化が表面発現分子や細胞増殖に影響するかどうか、in vitroで腫瘍細胞に強制発現させることで確認する。 他の免疫担当細胞による作用については、樹状細胞との関係に着目しており、マウスを使って樹状細胞の多い腫瘍では制御性T細胞が増殖しているかどうかを調べるといった実験を進めている。また、ヒト頭頸部癌組織の検体から樹状細胞を採取することに成功しており、それらについてフローサイトメトリーによる代表的な分子発現の確認も済んでいる。今後はさらに症例数を増やしたり他の分子発現を確認したりする。また樹状細胞についてもRNAシークエンスによる遺伝子発現解析を行う。これらの解析から制御性T細胞に作用している分子を特定していく。その他の免疫担当細胞やサイトカインといった腫瘍微小環境の影響も考慮する必要があり、web上で閲覧できる大規模なデータから候補を挙げていっており、樹状細胞と同様に実験を行っていく。 これらの研究を進めて制御性T細胞の免疫抑制能や細胞増殖能が上昇するメカニズムが解明されれば、次にそこを抑制する方法(薬剤など)を見出し実臨床につなげることが可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、当初予定していたよりも旅費が少なかったことが挙げられる。本年度から海外学会での発表も計画していたが、競争のある分野であり、先に論文化しておいてから学会発表するのが望ましいと考えて控えておいことや、研究協力者のいる大阪大学へ出向いての研究ではなく、自施設で行える研究を優先して行ったことが、旅費が少なかった理由と思われる。 次年度使用額の使用計画であるが、具体的にはフローサイトメトリーやセルソーティングなどに用いる蛍光抗体の追加購入、遺伝子導入に用いるウイルスベクターの購入、発現確認のためのPCRのプライマー購入など、実験に用いる消耗品を中心に物品費にあてる予定である。もしくは、次年度において論文化、学会発表をする費用にあてることも考えられる。また、RNAシークエンスなど研究協力が必要な実験も予定しており、そのための出張費に使用することも考えられる。いずれの場合においても、研究計画としては、先に述べたような頭頸部癌における制御性T細胞の特徴がいかにしてもたらされるのかを探るという方針で、予定通り進めることで助成金を使用させていただく。
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