研究課題/領域番号 |
19K18780
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡本 志央 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 研究員 (10838139)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 接着斑 / focal adhesion kinase / 蝸牛有毛細胞 / 平面内細胞極性 / 収斂伸長 |
研究実績の概要 |
申請者は以前、繊毛蛋白であるIntestinal Cell Kinase(ICK)が、マウス蝸牛の発生期において、有毛細胞の繊毛内輸送に関与し、収斂伸長(Convergent extension:CE)や平面内細胞極性(Planar Cell Polarity:PCP)を制御することを明らかにした。蝸牛におけるCEとは、蝸牛感覚上皮予定領域の前駆細胞群がダイナミックに移動することにより、組織の幅を収斂させると同時に前後方向に伸長させる形態形成の仕組みである。ICKの欠失した蝸牛ではCE阻害と有毛細胞におけるPCP障害が観察された。CE阻害とPCP障害の両者をきたす表現型は、繊毛蛋白のみならず、古典的なcore PCP蛋白の欠損によっても生じることが知られているが、PCPとCE両者の制御に共通するメカニズムについては未解明である。 接着斑(Focal adhesion:FA)は細胞基質間の接着装置であり、FAを構成する蛋白質は、外部の環境変化を受容し、その情報は細胞内のアクトミオシンを介して、核へと伝達される。さらに核内におけるクロマチン構造や遺伝子発現制御の変化により、細胞の分化や移動が制御される。そこで申請者はFA構成要素であるFocal adhesion kinase(FAK)に着目し、その発現パターンをin situ hybridizationと免疫染色により解析したところ、胎生11.5日から15.5日までは蝸牛感覚上皮細胞の頂側面と基底面に同程度発現していたが、胎生18.5日では基底面の発現が低下する一方、頂側面の発現が増加し、さらに生後30日では内・外有毛細胞の頂側面にのみに強い発現が観察された。この結果より、FAKは蝸牛感覚上皮の発生段階において、初期には感覚上皮細胞の頂側面および基底面の両者において、後期は頂側面のみにおいて機能を有している可能性が考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本計画においてまずはFAKコンディショナルノックアウトマウスを作製し、FAKの蝸牛感覚上皮における機能解析を行う予定であるが、マウスを飼育する動物舎の気圧が上昇するという問題が生じ、マウスの繁殖に悪影響をきたした。マウスの健康状態を注視しながら、今後慎重に繁殖を進めていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はFAKコンディショナルノックアウトマウスを作製し、FAKを蝸牛の発生段階において時期特異的に欠失させることにより、発生段階時期毎に、FAKの、蝸牛感覚上皮の形態形成における機能解析を行う。コンディショナルノックアウトマウス作製に必要なCreマウスについては、当初は蝸牛予定領域の前駆細胞において特異的にCreを発現するSox2-CreERマウスを用いる予定であったが、このマウスはノックインマウスであり、Sox2は蝸牛感覚上皮の発生段階において、発現量が減少すると内有毛細胞が増加することが知られているため、CAG-CreERマウスを用いることとした。このマウスを使用するにあたり、まずは蝸牛感覚上皮におけるCreの発現パターンを、レポーターマウスと交配させることにより解析する。蝸牛感覚上皮細胞において、期待通りCreが発現することが検証できれば、次にCAG-CreERマウスを用いて、FAKコンディショナルノックアウトマウスを作製し、胎生11.5日、13.5日、15.5日にタモキシフェンを投与し、FAKを時期特異的に欠失させた場合の表現型について解析する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
マウスの繁殖に問題が生じ、実験が計画通り進まなかったことにより、次年度使用額が生じる状況となった。次年度使用額と翌年度分の助成金は、主にマウス飼育費、免疫染色等の解析に用いる試薬、器具等に使用する予定である。
|