申請者は以前、繊毛蛋白であるIntestinal Cell Kinaseが、聴覚器官である蝸牛の感覚上皮において、収斂伸長および有毛細胞頂面の平面内細胞極性(Planar Cell Polarity: PCP)を制御することを報告した。しかし両者に共通するメカニズムについては未解明である。両者には、いずれも細胞支持構造が協調しながら、ダイナミックに変化することが必要であると考えられるため、当初、細胞支持構造の構成要素である、微小管およびアクチンの挙動を制御する分子に着目する予定であった。しかし、近年、細胞外からの機械刺激が、細胞の増殖、分化、移動などの行動変化を制御することが多く報告されている。細胞外からの機械刺激を細胞内に伝達する装置として、細胞-基質間接着装置(接着斑)、細胞-細胞間接着装置などが知られているが、中でも接着斑を介した機械刺激の伝達は、細胞の運命決定、増殖、移動に深く関与することが報告されている。そこで蝸牛の収斂伸長と有毛細胞のPCPの両者を制御する機構として、細胞支持構造よりさらに上流においてこれらを制御する可能性のある接着斑に着目することで、より包括的なメカニズムの把握が可能になると考えた。 そこで、接着斑の構成要素の一つであるキナーゼを、マウスの蝸牛発生段階において、CAG-CreERマウスを用いて、時期特異的に欠失させた。マウス蝸牛感覚上皮の発生期においては、E14日頃より前駆細胞の分化が開始、E14-16日頃に収斂伸長、E16-生後10日頃に有毛細胞のPCPの形成が完成することが知られているが、E14.5、E15.5日目にタモキシフェン(TAM)を投与した変異マウスでは、収斂伸長、有毛細胞のPCPのいずれも、コントロールマウスと同様であった。しかし、E12.5、E13.5日でTAMを投与したマウスでは、有毛細胞と支持細胞の形成に変化が見られた。
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