気管狭窄・瘢痕声帯は難治性・再発性の疾患であり治療に難渋することが多い。気管創傷治癒過程におけるExtracellular signal-regulated kinase 細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK) のメカニズムの解明を目的とし本研究を行っている。今回の目的と実績概要を以下 にまとめる。 1.新規のマウス気管狭窄モデルを作成した。気管切開後に気管孔上方の気管前壁を焼灼し1週間後に第1-2気管を摘出した。この焼灼群において横断面の組織学的評価を行い、狭窄率を無処置群、気管切開のみの群と比較したところ、無処置群と比較して有意に狭窄率の上昇を認めた。2.無処置、焼灼5分後における気管内リン酸化ERKの局在を免疫組織学的に評価した。両群においてERK1/2リン酸化は上皮基底細胞に認めた。3.無処置、焼灼5分後、30分後、90分後の気管を摘出し、ウエスタンブロット解析にて気管内ERK1/2リン酸化を定量評価した。焼灼5分後にERK1/2リン酸化が増加し、以降は減少した。4.ERK1/2上流に位置するMAPK/ERK kinase(MEK)に対する阻害剤を焼灼30分前に投与した群と非投与群において、焼灼5分、30分、90分後の気管を摘出し気管内ERK1/2リン酸化を定量評価した。阻害剤投与群では非投与群と比較して焼灼後の気管内ERK1/2リン酸化の著明な減少を認めた。5.阻害剤を単回投与した焼灼群、連日(5日間)投与した焼灼群における1週間後の気管狭窄率を無治療焼灼群と比較した。気管狭窄率は無治療群と比較して阻害剤単回投与群では有意な低下は認めず、阻害剤連日投与群では有意に低下した。 本研究成果より、ERK1/2は気管狭窄に対する新規治療法の標的となる可能性があると考えられた。
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