研究課題/領域番号 |
19K18787
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小山 一 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (80825167)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人工知能 / 機械学習 / 画像解析 / 中耳 / 鼓室形成術 |
研究実績の概要 |
中耳疾患への手術治療が開発されて以来、数多くの手術、研究が行われているが、術後聴力を予測することはいまだに困難である。CT検査の普及により術前評価はより正確になったが、定量的な予後因子が明らかにされていないためである。本研究課題では、近年急速に進歩している人工知能の技術、特にディープラーニングの手法を活用することで、術後聴力を予測する機械学習モデルを開発すると共に、定量化された予後予測因子の開発に取り組むことを目的とした。 具体的には中耳疾患の手術が行われた症例を対象として、術前CT 画像から術後聴力の改善を予測する3次元の畳み込みニューラルネットワーク(3D-CNN)モデルを開発を試みた。 研究代表者の所属する施設と研究協力施設において、伝音難聴に対し手術治療を行なった症例を対象とし、術前側頭骨CT画像と術前・術後聴力を対応付けたデータセットを収集した。CT画像は0.5から0.625mmスライス厚のものを使用し、範囲は上半規管上端から中耳内耳の主要な構造物が入るように設定した。CT画像はDICOMデータとして提供されるため、これを汎用的な画像フォーマットに変換し、3次元の画像データ(画像チャネル数×奥行き×幅×高さ)とした上で入力データとした。予測対象となる術後聴力は、術後90日以上450日以内に測定した聴力のうち、もっとも遅く検査した結果を用いた。聴力の指標となる気導閾値は、500Hz, 1000Hz, 2000Hz, 3000Hzの4周波数の平均を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は人工知能を用いた、術後聴力予測システムの開発を進行させた。術前の聴力および側頭骨CT画像を解析することで、術後の聴力を予測する人工知能の開発に取り組んだ。 研究協力施設でのデータの集積、解析を行い、これまで730症例のデータセットを構築し、術前のデータの処理、CTデータの処理を行なった。 これらデータセットを教師データおよび検証データに分け、教師データを用いて教師あり学習を行い、システムを構築した。 現時点までにデータセットの準備は完了しており、ディープラーニングによる解析も開始できている。機械学習、とりわけディープラーニングではデータセットの準備が最も時間がかかるため、この準備が完了していることは順調な経過と言える。また、これまで概ね教師データで90%以上、検証データでも70%以上の正答率を記録しており、初年度の成果としてはおおむね順調と考えられる。 本研究のこれまでの内容については、2019年耳科学会において報告し、Young Awardセッションに選出されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまで構築したデータセットを用いて、さらに条件を変えてディープラーニングによる学習を行い、最適な条件(ハイパーパラメーター)の探索を行なっていく。 また、ディープラーニングの解析を行いつつ、内部の構造の可視化についても行なっていく予定である。ディープラーニングについては、入力と出力についてはわかりやすいものの、その内部の処理がわかりにくいという欠点がある。本研究でいえば、術前のCTと術後聴力の予測結果という入力と出力はわかりやすいものの、具体的にコンピューターが術前CTのどの部位を見て術後聴力を予測しているかわかりにくい、という欠点である。 そこで、コンピューター内部の計算を可視化することを試みる。具体的には、コンピューターが重視している部位とはすなわち係数(重み)が大きい部位であると考えられるため、その箇所を特定し、術前のCT画像に重ね合わせて出力する予定である。この手法はGrad-CAMと呼ばれ、すでに他の領域ではディープラーニングの可視化に使用されている方法である。 こちらの手法を用い、かつ3次元のCTに適用することで、コンピューターが術後聴力を予測する場合に重視している箇所を同定するとともに、その箇所が臨床的にどのような意味をもっているのか、検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では使用しなかったコンピューターがあるため、次年度繰越とした。 次年度、コンピューターを購入予定である。
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