研究課題/領域番号 |
19K18798
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
倉田 奈都子 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 医員 (30516315)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管条 / 難聴 / マクロファージ / メラニン / 内耳 / 色素沈着 / SLC26A4 / 耳科学 |
研究実績の概要 |
本研究では SLC26A4 遺伝子の機能と血管条との関連を解析することにより、高頻度に同定される本遺伝子の変異による内耳障害の病態を解明することが目的である。SLC26A4変異による難聴は、本難聴遺伝子以外の環境因子による影響が示唆されている。内耳血管条内には著明に増加・増殖した色素沈着とマクロファージが観察され、血管条内色素沈着はSLC26A4変異による難聴の増悪因子と考えられる。本研究ではSlc26a4l欠損マウスを用いて、色素欠損したアルビノマウスを遺伝的背景に持つ モデルマウスと交配させることで、内耳血管条におけるメラニンが関与する影響および各種障害に対する反応メカニズムの解明を目的とする。Slc26a4ノックアウトマウスは常に先天性重度難聴で聴性脳幹反射(ABR)では無反応とされてきたが、白色系アルビノマウスと交配し色素欠損した遺伝的背景のもとでプライエル反射を確認すると反応が見られ、ある程度の聴力を獲得していることが確認できた。Slc26a4ノックアウトマウスを白色系アルビノマウスCD-1(ICR)と交配し、メラニン色素を欠損したSlc26a4ノックアウトマウスを作成した。白色系アルビノマウスと交配したSlc26a4 ノックアウトマウスおよび Slc26a4 機能不全マウスにおいて、血管条における色素沈着ならびにマクロファージの集積を認めなかった。さらにもっとも一般的なマクロファージのマーカーであるCD68抗体を用いて免疫染色する と、CD68陽性マクロファージもほとんど観察できなかった。別のマクロファージマーカーであるIba1抗体やF4/80抗体を用いて免疫染色を行っており、野生型の黒色系マウスと野生型の白色系アルビノマウスではIba1やF4/80陽性マクロファージの分布にほとんど差を認めなかった。 これらの結果はSLC26A4変異による聴力の変動や難聴の進行の予防法確立のみならず、血管条障害に伴う老人性難聴のメカニズム解明にも大きく貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルビノマウス CD1(ICR)を遺伝的背景として少なくとも5世代以上交配したSlc26a4ノックアウトマウスの中から1か月齢の野生群(Slc26a4+/+)、ヘテロ群(Slc26a4+/Δ)、ホモ群(Slc26a4Δ/Δ)をgenotypingに選別した、野生群、ヘテロ群、ホモ群のABRを計測し、統計学的に比較した。ABRは8、12、16、22.4、32 KHzの周波数のtone burstを刺激音として用い、100dBSPLから開始して、波形が確認できた時点で閾値と判断した。野生群とSlc26a4ノックアウトマウスのヘテロ群では形態的にほとんど変わりがないことがわかっており、上述のABR閾値に明らかな差異がなかったため以降の実験をヘテロ群とホモ群にて比較して行うこととした。ヘテロ群とホモ群それぞれ6匹以上から血管条を顕微鏡下に摘出し、CD34抗体にて血管条内血管を、CD68抗体にてマクロファージを免疫染色にて標識し、whole mount preparationによって共焦点顕微鏡(Leica TCS SP8)にて観察した。野生型マウスではCD68抗体にて標識したマクロファージの箇所と血管条内血管の位置に沿って観察された色素沈着の箇所がほぼ一致して見られていた。しかし、白色系アルビノマウスと交配したSlc26a4 ノックアウトマウスおよび Slc26a4 機能不全マウスにおいて、血管条における色素沈着ならびにマクロファージの集積を認めなかった。マクロファージのマーカーとして、現在はCD68を用いているが、F4/80やIba1を用いて研究を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策: 色素沈着の有無およびCD68染色領域との関連についてマウスの個数を増やして検証する。さらにABR閾値とCD34抗体にて標識した血管条内血管の走行パターン、およびCD68抗体にて標識したマクロファージの形態や大きさとの関連も比較する。またF4/80抗体やIba1抗体などの別のマクロファージマーカー抗体を用いて検証する予定である。血管条におけるメラニン沈着とマクロファージの活性化についての関係を調べるため、RNA解析等も考慮している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年は実験で使用する試薬類が当初の予測より少なかったため。
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