研究課題
本研究では SLC26A4 遺伝子の機能と血管条との関連を解析することにより、高頻度に同定される本遺伝子の変異による内耳障害の病態を解明することが目的である。SLC26A4変異による難聴は、本難聴遺伝子以外の環境因子による影響が示唆されている。内耳血管条内には著明に増加・増殖した色素沈着とマクロファージが観察され、血管条内色素沈着はSLC26A4変異による難聴の増悪因子と考えられる。本研究ではSlc26a4l欠損マウスを用いて、色素欠損したアルビノマウスを遺伝的背景に持つ モデルマウスと交配させることで、内耳血管条におけるメラニンが関与する影響および各種障害に対する反応メカニズムの解明を目的とする。Slc26a4ノックアウトマウスは常に先天性重度難聴で聴性脳幹反射(ABR)では無反応とされてきたが、白色系アルビノマウスと交配し色素欠損した遺伝的背景のもとでプライエル反射を確認すると反応が見られ、ある程度の聴力を獲得していることが確認できた。Slc26a4ノックアウトマウスを白色系アルビノマウスCD-1(ICR)と交配し、メラニン色素を欠損したSlc26a4ノックアウトマウスを作成した。白色系アルビノマウスと交配したSlc26a4 ノックアウトマウスおよび Slc26a4 機能不全マウスにおいて、血管条における色素沈着ならびにマクロファージの集積を認めなかった。さらにもっとも一般的なマクロファージのマーカーであるCD68抗体を用いて免疫染色すると、CD68陽性マクロファージもほとんど観察できなかった。別のマクロファージマーカーであるIba1抗体やF4/80抗体を用いて免疫染色を行っており、野生型の黒色系マウスと野生型の白色系アルビノマウスではIba1やF4/80陽性マクロファージの分布にほとんど差を認めなかった。これらの結果はSLC26A4変異による聴力の変動や難聴の進行の予防法確立のみならず、血管条障害に伴う老人性難聴のメカニズム解明にも大きく貢献する。
3: やや遅れている
令和3年度はコロナウイルス感染症の蔓延により、出勤制限やテレワークを行わざるを得なかったことから当初の予定よりも大幅に遅れることになった。このため科研費の延長を申請し、承諾を得ている。
令和3年度は予定していた実験が一部できず進捗状況は遅れている。コロナウイルス感染症による出勤制限は今後も続く見込みが高いため、実験可能な日程の際にできるだけ多くのデータを収集し、出勤制限がなされた状況になった際にはデータ解析に時間を費やして、大きな遅れが起こらないように計画していく。色素沈着の有無およびCD68染色領域との関連についてマウスの個数を増やして検証する。さらにABR閾値とCD34抗体にて標識した血管条内血管の走行パターン、およびCD68抗体にて標識したマクロファージの形態や大きさとの関連も比較する。またF4/80抗体やIba1抗体などの別のマクロファージマーカー抗体を用いて検証する予定である。血管条におけるメラニン沈着とマクロファージの活性化についての関係を調べるため、RNA解析等も考慮している。
コロナウイルス感染症の蔓延のため出勤制限の期間があったため、実験が当初の予定通りに進捗しなかったため。
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