研究課題/領域番号 |
19K18803
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
樋渡 直 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (10808778)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 間葉系幹細胞 / 軟骨再生 / 甲状軟骨 |
研究実績の概要 |
① 研究協力者が開発した分化誘導法を用い、ヒトiPS細胞から神経堤細胞を介して間葉系幹細胞(MSC)への分化誘導後、さらに軟骨細胞に分化誘導する至適条件を検討する予定であったが、複数の文献においてMSCの状態での移植でも軟骨組織再生を認めたという報告が確認できたため、より免疫拒絶反応が起きにくいMSCの状態での移植実験へ方針を変更した。研究協力者がより臨床応用に適したゼノフリーでの分化誘導プロトコールを開発したため、我々にも技術移転され、ヒトiPS細胞から神経堤細胞への分化誘導、神経堤細胞からMSCへの分化誘導を複数回行い、フローサイトメトリーを用いた表面抗原の発現から分化細胞がMSCであることを確認した。 ② ラットを用いた気管内腔粘膜を温存した軟骨のみの欠損モデルの作製を検討したが、気管内腔粘膜の温存が技術的に困難であり、移植に際して必要な裏打ち組織が確保できないため、気管の頭側に存在し裏打ち組織として内喉頭筋を有する甲状軟骨を移植対象臓器とすることに変更した。免疫不全ラットの甲状軟骨に軟骨欠損を左右対称性に作成し、一定期間後に自己再生がないことを確認した。 ③,令和2年度-3年度にかけて行う予定であった免疫不全動物への移植実験に着手した。ラット甲状軟骨欠損部位にヒトiPS細胞由来MSCを移植し、一定期間後に組織採取を行った。予備実験例において免疫組織化学で抗ヒト核抗体陽性細胞(移植細胞の生存)を認め、アルシャンブルー染色で同部位に再生軟骨組織を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本来、令和1年度-2年度にかけて行う予定であったMSC分化誘導至適条件の検討および組織解析に関しては、まずは軟骨分化を行わずMSCの状態で実験計画を進めることとし、令和2年度-4年度にかけて行う予定であった免疫不全動物への移植実験に着手した。予備検討の段階ではあるが、一部の症例において抗ヒト核抗体陽性の軟骨組織再生を認めており、当初令和3年度に達成するはずであった目的の結果がすでに得られ始めている。移植後の組織内でヒトiPS細胞由来軟骨細胞が検出されたので、あとは論文化へ向けてさらに移植匹数を増やし検討を行う予定としているが、安定した分化誘導および手術手技が確立されており、サンプル数を増やすだけで、条件検討は不要であるため、研究計画も遅れることなく実現する事ができる。
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今後の研究の推進方策 |
I. 甲状軟骨欠損部モデルへのヒトiPS細胞由来MSCの移植 現在までに甲状軟骨欠損免疫不全ラットモデルに対する移植を複数回行い、免疫組織化学検査において移植細胞の生着およびアルシャンブルー染色にて軟骨組織再生効果をすでに数匹で認めている。今後同様の移植条件を用いて、症例数を増やしさらなる検討を行う予定である。 II. 移植後細胞生着確認および軟骨組織再生効果の検討 Iで行った移植例に対して、移植後4週間目および8週間目にラット喉頭を採取し、下記の評価を行い、結果をまとめる。① 移植細胞の生着:抗ヒト核抗体を用いた免疫組織化学で確認する。② 軟骨組織再生の有無:硝子軟骨組織再生効果をアルシャンブルー染色、サフラニンO染色で確認する。さらなる軟骨組織再生の検証のためII型コラーゲンとSox9に対する免疫組織化学を追加し、再生組織中の線維軟骨の有無をI型コラーゲンに対する免疫組織化学で確認する。③ 腫瘍形成の有無をHE染色で確認する。上記事項を論文にまとめて、英文校正後、投稿し、必要なリバイス実験を経て受理を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者らがより臨床研究に適したゼノフリーでの分化誘導プロトコールを確立し、それを踏襲したため、分化誘導の際の培地が当初の計画より高額となり、また移植細胞が想定以上に大量に要することが判明したため、計画当初より細胞培養にかかる費用が高額となった。さらに、分化誘導条件の安定化や欠損モデルの確立が予定よりも早期に終えられたため、本来、令和2年度-3年度にかけて行う予定であった免疫不全動物への移植実験に着手し、成果を得た。そこで論文化のためにさらなる移植症例数を増やし、追加の実験を行うべく、今年度2回の前倒し申請/前倒し支払い請求を行ったが、コロナウイルスの問題も浮上し始めており試薬によっては納品に支障がる可能性も浮上していたため、年度末締めに間に合わない可能性を考慮して年度明けに実験を行うことにしたため、前倒し支払い請求分が丸ごと残り次年度使用額が生じた。本来の計画より、研究自体は進捗している為、研究目標達成に支障はない。
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