令和元年度には、老齢Fkbp5ホモノックアウトマウスの聴力を測定した。1年齢のFkbp5ノックアウトマウスの、クリックABRによる聴力閾値は63.8±16.6 dB SPL(平均±標準偏差、n=8)で、同年齢の野生型マウス(66.9±13.6、n=8)と有意差はなかった。Mifノックアウトマウスについては9カ月齢以降には野生型マウスよりも高度の加齢性難聴を呈すると、我々のこれまでの実験で示されている。そこで次に1年齢の野生型マウスが、6週齢の野生型マウスと比べて有意な加齢性難聴を呈すると確認し、その蝸牛での遺伝子発現を検討した。 加齢性難聴を呈した野生型マウスの蝸牛でのFkbp5、Mifの発現量は、RNA-seqによるデータでは、6週齢野生型マウスと大差なかった。Fkbp5、Mifの加齢マウスでの発現量は、若年マウスの1.02倍および0.99倍であった。また、加齢性難聴を呈する蝸牛で、若年マウスの蝸牛と比べて発現量が2倍以上、あるいは1/2以下に変動する遺伝子として、762種類の遺伝子(発現増加遺伝子:426種類、発現減少遺伝子:336種類)を検出した。これらの変動遺伝子の機能を遺伝子パスウェイ解析で検討したところ、“Cytokine-cytokine receptor interaction”、“T cell receptor signaling activity”、 “Chemokine signaling activity”といった、炎症免疫機能に関係する機能的遺伝子パスウェイが有意に変動していると判った。例えばCytokine-cytokine receptor interactionパスウェイに属する変動遺伝子として、28種類の遺伝子を同定した。また、遺伝子機能のキーワード解析(Gene Ontology Term解析)では、これらの変動遺伝子には、“Immune system processes”、“Immune response”、“Inflammatory response”といった、炎症・免疫機能に関係するものが多いことが判った。 以上の様に令和元年度に、加齢性難聴に内耳免疫が密接にかかわることを、野生型マウスの遺伝子発現のデータをもって示すことができた。
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