本研究の目的は、声帯振動様式を把握し、音声障害(嗄声)に対する診断・治療への応用を図ることである。その手法として高速度カメラで声帯振動を直接観察し、デジタル動画像上の声帯をマーキング・座標データの抽出することにより、声帯の動きをグラフ化し定量的解析を行う。声帯振動の撮影においては、高速度カメラを斜視型硬性内視鏡へ接続し、経口的に喉頭内腔を観察する。硬性内視鏡を用いることでクリアで解像度の高い画像が得られる。 本研究において、健常成人5名、声帯ポリープ3例、声帯結節2例、ポリープ様声帯3例、声帯白板症4例、喉頭癌(T1)4例、内転型痙攣性発声障害5例を対象に持続発声時の高速度撮影を行った。いずれにおいても声帯振動を明瞭に観察することができ、発声時の声帯振動について声帯膜様部中央および後方1/3の部位において、声帯遊離縁の軌跡をDIPP-Motion Proにより追跡し、経時的にグラフ表示した。 声帯ポリープおよび声帯結節例では、声門閉鎖不全が明瞭に確認でき、ポリープ様声帯では左右声帯遊離縁の振動パターンが同期せず、振幅や周期も不規則であった。声帯白板症では患側声帯の振幅の減少が見られ、喉頭癌では振幅の低下や声門閉鎖不全がより高度であった。 声帯振動の高速度撮影は、喉頭ストロボスコープ検査で捉えられない左右声帯の振幅や振動様式の乱れを明確に捉えることができ、さらにそれを動画解析することで定量評価することが可能であった。これにより、音声障害の診断がより適確に行えることが示され、臨床的な有用性が確認できた。
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