抗甲状腺薬であるメチマゾールは嗅神経を障害する薬剤として知られており、本薬剤の腹腔投与で嗅上皮傷害モデルを作成した。14日間のにおい刺激の有無で嗅上皮傷害モデルマウスの嗅覚忌避行動(初年度に開発した酪酸に対する忌避行動観察装置を使用した)に有意差は認めなかったことから、次いで、嗅覚刺激療法の効果を高める治療法の研究として、皮下脂肪由来幹細胞の経鼻移植研究を開始した。 嗅上皮傷害モデル動物での脂肪由来幹細胞の経静脈投与による嗅上皮再生促進が報告されてきたが、経静脈投与では肺塞栓のリスクがあり臨床応用は困難であったため、嗅上皮傷害マウスにGFPマウス皮下脂肪由来幹細胞の経鼻移植を行った。移植して14日後に嗅覚忌避行動回復促進効果を認め、免疫化学染色では、点鼻14日時点では鼻腔内にGFP陽性細胞は認めないが、嗅上皮の成熟嗅細胞の増加を脂肪由来幹細胞移植群で明らかとした。 次いで、皮下脂肪由来幹細胞の経鼻移植は嗅上皮再に関して、投与後短時間での状態を確認した。移植24時間後、嗅粘膜上皮の再生に必要とされる球状基底細胞が増加しており、GFP発現細胞は主に剥離した上皮に付着していた。脂肪幹細胞からは多数の神経栄養因子が細胞外に分泌されることが明らかとなっており、今回使用した脂肪由来幹細胞の細胞調整液上清をELISAで解析したところ、嗅覚機能に重要とされる神経成長因子の濃度が、コントロールと比較して増加していることが明らかとなった。
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