本研究の目的は、神経を取り巻く髄鞘の脱分極が神経系へ及ぼす影響を解析することである。そのために、髄鞘にChR2(光感受性非選択的陽イオンチャネル)を発現させた遺伝子改変マウスを用いる。組織学的検査からは、聴神経の髄鞘およびラセン神経と神経節の髄鞘、そして、坐骨神経の髄鞘にChR2が発現していることがわかった。聴神経に対する実験としては、蝸牛へのバイポーラ電気刺激により脳波を誘発させ、その中の聴神経由来の反応に焦点を当てて解析することにより行なった。遺伝子改変マウスで電気刺激時に青色LEDの光照射を行うと、聴神経伝導の潜時が軽度短くなることがin vivo実験でわかった(蝸牛への電気刺激はバイポーラ刺激で700μA. N=3; コントロールとの平均差異0.12 ms)。これは聴神経がその髄鞘の脱分極により刺激されたことを示しており、神経損傷後の神経再生を助長させる刺激となる可能性が以前の報告から推察された。まずは、アプローチしやすい坐骨神経の髄鞘の脱分極による神経への影響を調べることとした。電子顕微鏡により正確なChR2発現の部位の同定を試みたが、手技的な問題からか、ChR2の髄鞘内での発現部位の正確な同定は困難であった。それと並行して、電気刺激による坐骨神経の伝導速度解析を試みたが、青色光照射による変化を上手く捉えることはできず、現在、検討中である。In vitro実験として、坐骨神経シュワン細胞へのパッチクランプも試みたが、こちらもまだ検討中で、有用なデータは得られていない状況である。実験は継続予定であるが、申請者が留学予定であり、継続申請は行なっていない。
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