ホモシスチン尿症の眼における表現型は水晶体亜脱臼(チン氏帯断裂)であり、このチン氏帯はマイクロフィブリルから構成され、その主成分はフィブリリンである。このフィブリリンタンパク質になんらかの変化を与えるのがホモシスチン尿症の病態であり、CBSノックアウトマウスの代謝解析を行うことで解明を試みた。 イメージングMSを用いて、CBSノックアウトマウスの眼を分析したところ二つの代謝物が明らかにWTと異なる事がわかった。一つはホモシステインパースルホネート(HcySSO3-)であり、硝子体および前房で高く検出された。HcySSO3-は大気圧型マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間形質量分析計ではホモシステインパースルフィド(HcySSH)が酸化した形として検出される。もう一つはOphthalmateであり水晶体上で検出された。Ophthalmateはグルタチオン(GSH)のシステインが2-アミノ酪酸に変わったトリペプチドであり、システインの枯渇を示唆していると考えられる。 同様の実験を液体クロマトグラフィー質量分析装置を用いて、眼球の活性硫黄種をモノブロモビマンで標識し定量した。CBSノックアウトマウスでもっとも有意な変化を認めた代謝物はホモシステインではなくHcySSHであった。 HcySSHのような活性硫黄分子は強い還元力を持つため、チン氏帯を構成するフィブリリンのジスルフィド結合に影響を与えている可能性が示唆された。
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