研究課題/領域番号 |
19K18843
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
佐々木 慎一 鳥取大学, 医学部附属病院, 講師 (30745849)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 白内障術後眼内炎 / 抗菌薬前房内投与 / 術中ヨード洗浄 |
研究実績の概要 |
眼内炎予防対策として、日本においては術前減菌法が標準的である。一方、諸外国においては抗菌薬前房内投与が広く用いられている。これらの予防対策の限界や有効性の検証を始めた。まず、術野の減菌を行う方法は、術前抗菌薬投与、術中ヨード洗浄がよく知られている。眼内炎の発症率を直接比較することは困難であるため、術野の細菌量を含めたprofileの評価を行ってきた。その結果、術中ヨード洗浄を行えば術前抗菌薬投与と同等程度の術野の減菌作用があることが判明してきた。 一方、白内障術前の結膜嚢より検出される細菌種を検討すると、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、CNSが主要菌種であった。特に常在菌であるStaphylococcus epidermidisに関しては、moxifloxacinやlevofloxacinに対する感受性は分離株の半数程度で低下していた。また、Staphylococcus epidermidis以外の病原性細菌に対しては1割がMIC>4 μg/mlとなっており、キノロン剤への耐性化がすすんでいた。前房内投与や術前減菌法においてはキノロン系のlevofloxacinやmoxifloxacinが主体であり、これらのプロトコールにしたがっても眼内炎の十分な予防効果が得られない可能性があることが判明してきた。 また、感染性が疑われて手術や抗菌薬投与加療が行われた症例や、連続症例を対象に前房内あるいは硝子体内における細菌や真菌量や細菌叢profileの検証に着手した。これらは培養で同定されないことも多いため、細菌の場合、16S r-RNA、真菌の場合は18S r-DNA、28S r-DNA、ITS領域を使用して菌種の同定を安定的に行う手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
眼内炎予防対策として、術中ヨード洗浄は術前抗菌薬投与と非劣性の術野の減菌作用があることを見いだし、その詳細を検証している。 また、バンコマイシンやセフロキシムに曝露された細胞が誘導する炎症性サイトカインとしてIL-8を見いだすことができた。さらに、前房水を用いて、眼内炎かそうでないか、さらには培養にたよらずその病原体を可及的早期に同定する手法を開発し、その有用性の検証にすすもうとしている。
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今後の研究の推進方策 |
眼内炎予防対策手法として、これまで術中ヨード洗浄の有効性が判明してきた。一方で抗菌薬投与自体は耐性菌増大に影響する可能性があり、今回の検証でも実際に術前の常在菌においてもそのような傾向が進行しつつあることが判明した。つまり、こうした抗菌薬使用の代替となる手法の開発が考慮される必要がある。 ヨードを用いた手法は耐性菌を考慮する必要がなく、代替法として有用である可能性がある。しかし、これまで推奨されてきた術前抗菌薬投与を含めた手法、さらには抗菌薬前房内投与などとの比較において詳細に検証する必要がある。 一方で検証の手法はこれまでは培養あるいは眼内炎発症率の比較に依存していた。しかしながら、眼内炎自体がまれであり、術野の汚染状況を正確に把握して眼内炎発症前のリスクとして同定することが重要であると考えている。とくに術後炎症が遷延化する場合を含め、前房内炎症の評価にはreal-time PCRによる菌量の把握のみならず菌種やウイルスDNA量まで把握する必要があると考えている。 実際の眼内炎の対応は、緊急で硝子体手術が施行されることが多い。一方、慢性的な経過をたどるケースの場合、その判断は困難である。このため真に感染性であったのか、TASSなどのなんらかの毒性による炎症なのかの判断を支援する手法の確立が必要と考えている。また、急性に発症するタイプの眼内炎であってもその予兆のレベルからとらえることができれば悪化が防げる可能性がある。このためには、炎症あるいは感染に応じて誘導されるmRNAやmiRNAの評価が有効である可能性を考えている。miRNAはとくに細胞から放出されるエクソソームの中に含まれており、これらは前房水のみならず涙液にも放出される。そこでエクソソームを標的とした診断手法が悪化予測に使える可能性を考え、その確立へと進めつつある。
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次年度使用額が生じた理由 |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の節約ができたたため。次年度実験試薬および消耗品購入に充当する。
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