研究課題
病的近視、黄斑上膜、網膜色素上皮剥離、増殖硝子体網膜症などの網膜疾患は、その発症に網膜へのメカニカルストレスが関与している。網膜を構成する細胞のうち、ミュラー細胞と網膜色素上皮細胞に対するメカニカルストレスの影響を分子生物学的に明らかにしようとしている。ミュラー細胞としてMIO-M1細胞、網膜色素上皮細胞としてpRPE細胞、iPS-RPEといった生体に近い細胞を用いた。これらの細胞を譲り受け、適切な方法により培養を行い安定して使用することが可能になった。メカニカルストレスを再現するために、細胞伸展刺激を行うこととした。既存の細胞伸展装置に、我々が独自で開発したシリコンチャンバーを用いて細胞伸展刺激を行った。これまでヒトRPE細胞株(ARPE19細胞)では特定のサイトカイン(TGF-β、TNF-α)により刺激を行うことで、細胞の上皮間葉転換が促進されることが判明している(Matoba, Shiode et al. PLOS ONE, 2017)。我々はpRPE細胞においても同様な反応が得られるのではないかと考えた。TGF-β2、TNF-αによるサイトカインサイトカインによる刺激と細胞伸展を併用することにより、pRPE細胞の形態が変化(細胞同士のpile up)が認められた。これは細胞の上皮間葉転換が促進している可能性があると考えており、現在RT-PCR、ウエスタンブロット法や免疫染色(α-SMA等)等による検討を行っている。iPS-RPE細胞およびMIO-M1細胞においても同様な実験を行っている。MIO-M1細胞においてもサイトカイン刺激と伸展刺激を併用することにより、細胞同士のpile upが認められた。現在MIO-M1細胞のpile up変化に伴う細胞のシグナル変化やタンパク発現変化をRT-PCR、ウエスタンブロット法、免疫染色を行って解析している。
2: おおむね順調に進展している
細胞(MIO-M1、pRPE、およびiPS-RPE)の培養を行い、安定して使用することが可能になった。これらの細胞を用いて、培養細胞進展装置による細胞進展刺激を行っている。特定のサイトカイン(TGF-β、TNF-α等)により刺激を行うことにより細胞どうしのpile upが認められることが判明している。細胞の上皮間葉転換に関与している可能性があると考えている。これを実証するためにRT-PCR、ウエスタンブロット、免疫染色により検討を行う予定としている。
細胞刺激の種類(伸張,圧迫,ずり応力など)や伸展強度,伸展方法(周期的伸展あるい は静的伸展)、刺激持続時間、ストレスをかける機器を変更し、細胞の上皮間葉転換が促進されるかどうかを検討する。上皮間葉転換の促進が認められた場合には、発現亢進した因子のメカノトランスダクションの解明を進めていく。メカニカルストレスのモデル動物眼に対する実験として、マウス、ラット眼を用いて、網膜への強い牽引により網膜剥離に至る増殖硝子体網膜症(PVR)のモ デルを作成する。培養実験でみられた細胞の形態、因子の発現が生体モデル眼においても同様にみられるかどうかを組織学的に検討していく。
理由)使用するサイトカインや免疫染色に用いる抗体の購入費が当初の予定よりも少なく済んだため。また学会参加費、旅費が当初予定していたよりも少なかったため。使用計画)各種網膜細胞の分子生物学的解析(細胞培養、細胞伸展装置、RT-PCR、ウエスタンブロット、免疫染色等)に用いる各種抗体、各種物品の購入に使用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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