研究課題
ヒト抗VEGF治療抵抗性糖尿病黄斑浮腫(DME)の硝子体の解析から、治療抵抗性浮腫ではVEGFのみならず、炎症性サイトカインも病態に関与することが示唆された。そこで網膜特異的VEGF高発現マウスの表現型を確認したところ、二次的に炎症性サイトカインの発現が上昇し、抗VEGF治療のみでは消失しない浮腫を再現することが出来た。以上の理由から、同マウスを治療抵抗性DME疾患モデルとして用いた。同マウス網膜の網羅的解析からROCKが活性化していることを突き止めたため、ROCK阻害剤であるリパスジルと抗VEGF抗体を用いたカクテル治療を行ったところ、抗VEGF治療抵抗性浮腫が消失するとともに、血管内皮細胞間密着結合構成分子であるclaudin-5の消失も正常レベルにまで回復した。ROCK阻害療法が治療抵抗性DMEに対する新規治療法となる可能性が示唆された。リパスジルの具体的作用機序を同定するため、まずリパスジル投与後のマウス網膜における炎症性サイトカイン濃度を測定した。TNFa、MCP-1、KCの濃度が有意に低下しており、リパスジルには抗炎症作用を有することが示唆された。次にリパスジル投与後の網膜におけるマクロファージ、リンパ球、好中球数をFACSを用いて定量した。この中で唯一マクロファージ数が有意に減少していた。表面抗原の解析により、リパスジルが血管内から網膜への炎症性単球の浸潤を抑制した結果、網膜内のマクロファージ数が減少することを突き止めた。リパスジルは単球の浸潤だけでなく、網膜内に侵入した単球の活性化をも抑制していた。次に培養血管内皮細胞を用いて、炎症性サイトカイン刺激によるclaudin-5の消失をリパスジルが抑制できるかどうか検証した。リパスジルは血管内皮細胞の細胞骨格の変化、つまりアクチン重合を抑制することでclaudin-5の細胞膜への発現を安定化させることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画目標を達成している上、海外の研究グループと共同研究を行い、ROCK阻害剤と抗VEGF抗体のカクテル治療薬の実臨床での効果を検証することが出来た。
リパスジルはROCKの2つのアイソフォーム、ROCK1、ROCK2双方の活性化を抑制する。これまでの研究により、リパスジルには炎症細胞の侵入・活性化の抑制、炎症性サイトカインによる血管内皮細胞膜上のclaudin-5発現低下抑制という2つの異なる作用があることがわかったが、それぞれにどちらのアイソフォームが関与するのか検証する。また、海外との共同研究も継続し、ROCK阻害剤の治療抵抗性DMEに対する効果を検証し、新規治療薬としての承認を目指す。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Diabetes
巻: 69 ページ: 981-999
10.2337/db19-1121