本研究は糖尿病網膜症の重症化の指標となる網膜内細小血管異常に着目し、光干渉断層血管撮影(OCTA)を始めとする多面的な網膜循環解析により、網膜内細小血管異常の発生機序および病態を解明し、糖尿病網膜症の早期介入を可能とする新たな進行予測法および早期治療法の基盤構築を目的とする。 2019年度はOCTAを用いた臨床研究を行った。国際重症度分類で重症非増殖糖尿病網膜症および重症糖尿病網膜症の患者を対象に、汎網膜光凝固術前後での網膜内細小血管異常の形態変化を経時的に観察した結果、網膜内細小血管異常は5つのサブタイプに分けることができ、網膜内細小血管異常にはリモデリングの要素を持つものと、新生血管の要素を持つものがあることが明らかとなり、特にtuft(房状の新生血管の芽)を有するタイプは重症糖尿病網膜症への進展の指標となる可能性が示唆された。これらの研究結果はIOVS 2020;61(3):34に掲載された。 2020年度は糖尿病豚を用いた基礎研究を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響により、SPF運用に必須であるマスクや手袋の供給が安定していないなどの理由から、動物実験施設Kurodakeのオープン延期、新規実験開始の禁止などにより、基礎実験を進めることができなかった。 2021年度もまた、新型コロナウイルス感染拡大の影響により新たな基礎実験を始める状況が整わず、また、実験助手や研究協力者の退職などにより、基礎実験の計画継続は困難と判断し、臨床研究を進めることとした。OCTAを用いて糖尿病網膜症患者における網膜内細小血管異常のタイプの分布を調べた結果、重症糖尿病網膜症患者の鼻側網膜でtuftを有するタイプが多い傾向を認めた。
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