研究課題
我々はこれまで「癌の治療薬としてのドラッグリポジッショニング」をテーマに既存の薬剤を癌の治療薬に再利用可能ではないか研究してきた。これまでに、研究代表者は、パーキンソン病やHIV脳症の新規治療薬として開発された薬剤であるCEP-1347がグリオーマや膵癌・卵巣癌などのがん幹細胞に対して抗腫瘍効果を示すことを明らかにしてきた。一方、網膜芽細胞腫の代表的な細胞株であるY79は神経幹細胞マーカーや胚性幹細胞マーカーが発現していることが知られており幹細胞様の性質をもつことが推察され、CEP-1347が網膜芽細胞腫に有用な薬剤ではないか、と着想した。予備実験でCEP-1347はY79に対して細胞増殖抑制能をもつ傾向が認められたたため、Y79およびY79以外の網膜芽細胞腫細胞株においてCEP-1347が細胞増殖抑制能をもつか、また、増殖抑制能をもつとすればどのような機序で作用するかをを検討するために本研究に着手した。今年度は、6種類の網膜芽細胞腫細胞株を用いて、網膜芽細胞腫細胞の増殖において重要な役割を果たしているとされるタンパクXに着目しCEP-1347がX遺伝子・タンパク発現に与える影響を検討したところ、CEP-1347によりX遺伝子の産物の発現が大部分の網膜芽細胞腫細胞株において抑制されることが判明した。現在、網膜芽細胞腫の診療において有効な分子標的薬治療は確立していない。網膜芽細胞腫はRb遺伝子のみならずいくつかの遺伝子異常があり、タンパクXはそういった網膜芽細胞腫で異常の見られる遺伝子の1つである遺伝子Xの遺伝子産物であり、今後CEP-1347は網膜芽細胞腫の中のタンパクXが発現している症例に有効な分子標的薬となりうることが期待される結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
今回、CEP-1347が網膜芽細胞腫細胞に対してどのような作用があるかを明らかにするため、網膜芽細胞腫細胞の増殖に重要な役割を果たしているとされる遺伝子Xに対するCEP-1347の効果を調べたところ、CEP-1347は遺伝子Xの発現を抑制することが確認された。その結果、タンパクXが高発現している網膜芽細胞腫細胞株においてはCEP-1347は有用な治療薬となりうる結果を得ることができたためおおむね順調に進展していると考えられる。
CEP-1347はc-Jun N-terminal kinase (JNK)の上流因子であるmixed lineage kinase(MLK)阻害剤といわれている。本研究で同定したタンパクXとそれらの経路との関連性がないかを検討する必要はあると思われる。また、本年度の結果をふまえて、CEP-1347の網膜芽細胞腫に対する増殖抑制効果の有無ならびに遺伝子X発現との関連をin vitroにおいて検討する。さらにin virtoで増殖抑制効果が確認された細胞株についてはマウスを用いた網膜芽細胞腫細胞株の移植実験を行い、CEP-1347投与によって腫瘍形成能が低下するかどうかを確かめるためのin vivo実験も検討したい。
タンパクXは細胞周期制御で重要な役割を果たす種々のタンパクと相互作用することが知られており、そちらに関する詳細な解析を行う必要が生じたため、マウスを用いた移植実験が次年度実施となった。網膜芽細胞腫細胞株をまずはマウスの皮下に移植したのちに、CEP-1347投与による抗腫瘍効果を検討したい。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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