網膜芽細胞腫(RB)は最も頻度の高い小児眼内悪性腫瘍である。様々な治療法の開発によりRBは生命予後が良好な悪性腫瘍となったが、現在もなお重症例の眼球温存率は低い。また、化学療法や放射線治療による二次がんのリスクもあり、安全性が高く視機能を温存できるような新規治療法が求められる分野である。 今回、ドラッグリポジショニングの手法を用いてRBに有効な薬剤スクリーニングを行い、予備実験の結果からパーキンソン病の治療薬として開発されたCEP1347に着目し、RBに対するCEP1347の有効性を検討した。 RB細胞株6種類中5種類でCEP1347による細胞増殖抑制効果を認め、CEP1347高感受性株ではCEP1347処理によって代表的ながん抑制遺伝子p53の発現上昇・活性化及びその代表的な標的遺伝子であるp21タンパクの発現が促進された。また、p53の転写活性に対する阻害薬Pifithrin-αはCEP1347によるp21タンパク発現や増殖抑制能を低下させたことから、CEP1347はRB細胞に対してp53経路依存的な増殖抑制能をもつことが明らかとなった。さらに、CEP1347に対する感受性を決定する因子を検討したところ、p53の阻害因子の1つとして知られるMDM4の高発現がみられるRB細胞株はCEP1347高感受性株と一致していた。また、CEP1347のRB細胞に対する増殖抑制能とMDM4-p53経路の関連性を検討したところ、MDM4タンパクを高発現しているRB細胞株はCEP1347によって時間・濃度依存的にMDM4タンパクの発現抑制と連動してp53経路が活性化されることを明らかにした。 以上より、CEP1347が野生型p53活性化を誘導することでRBの細胞増殖を抑制することを明らかにし、CEP1347をRBに対する新規治療薬候補として国際誌に発表し掲載されるに至った。
|