ヒトiPS細胞由来のRPE細胞を用いてレーザー照射実験を継続した。マイクロパルスを使った理想的な閾値下レーザーの照射条件を決定するために、糖尿病黄斑浮腫に対する奏功機序のkey triggerとして知られるheat shock protein(HSP) 70の発現上昇をqPCRで確認し、かつLIVE/DEAD assayにより細胞死がない出力パラメーターを同定した。一方で、連続波を用いた従来法による照射についても細胞の組織学的評価から出力条件を決定した。これらの2つの照射法によって細胞に対して照射を行い、照射後3時間および24時間値における遺伝子発現変化についてRNAシーケンスを使って網羅的な検討を行った。 閾値下レーザーと従来法ではHSP familyの発現量ならびに発現パターンが異なることが示された。また、各照射方法で発現差を認めた遺伝子についてエンリッチメント解析を行い、濃縮されたGene ontology用語を同定した。その結果、閾値下レーザーでは従来法と比べて光感受性や視細胞維持などの神経系プロセスに有益な効果をもたらす遺伝子発現、また、従来法よりもアポトーシスの抑制に有利である遺伝子発現がみられた。この結果は照射条件の違いによる遺伝子応答に関する洞察をもたらし、レーザー治療が網膜に及ぼす温熱効果の分子機構の解明に貢献するものと考える。本研究結果をまとめ、学会での報告を行い、現時点で論文投稿中である。
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