研究実績の概要 |
緑内障手術である線維柱帯切除術は、治療効果は高いが、術後の重大な合併症の一つとして白内障が進行する。線維柱帯切除術では、虹彩切除を伴い、その結果できた新たな房水流出路において水晶体に向かう房水の流量が減少する。そのため、水晶体の透明性を保つために必要な代謝反応が減少し、水晶体混濁が進行すると我々は考えた。本研究では、白内障進行と深い関わりがあるといわれる酸化ストレスに着目し、虹彩切除後の前房水と白内障進行の生理的なメカニズムを解明することで、新たな白内障治療薬開発の足がかりや緑内障濾過手術における術式選択の新たな判断基準の創出を目指している。日本有色ウサギを対照群、虹彩切除群、線維柱帯切除術群の3群に分け、各群において術後1週間・1か月・6か月・12か月後の、前房水、水晶体を採取した。前房水において重要な抗酸化物質であるアスコルビン酸の測定と総抗酸化能の測定をAssay kitを用いて行った。虹彩切除群と線維柱帯切除術群の前房水中のアスコルビン酸濃度と総抗酸化能は対照群と比較して各々、術後すべてのタイムポイントで有意に低下していた。また前房水中のアスコルビン酸濃度は総抗酸化能と正の相関を示していた。また虹彩切除群と線維柱帯切除術群において水晶体を病理学的に検討したところ、術後6か月、12か月目の水晶体において白内障性変化がみられた。線維柱帯切除術の特に虹彩切除は,前房内の抗酸化環境を慢性的に低下させるという新たな知見を得た。
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