ドライアイは、目の乾燥感・不快感、疲れ、視覚障害など様々な自覚症状を引き起こす慢性疾患であり、その自覚症状は生活の質を著しく低下させることが知られている。近年、ドライアイ患者の中には中枢性の神経ネットワークの異常により自覚症状が誘発されていることを示唆する報告がされている。本研究では、ドライアイモデルマウスにおいて角膜神経とシナプスを形成する延髄または頸髄神経のシナプス応答がいつ頃どのように変化しているか明らかにし、中枢性感覚異常を引き起こす時期とその神経科学的変化を明らかにする研究を実施した。 神経因性疼痛や炎症性疼痛などの神経疾患において観察される脊髄のシナプス伝達の異常は、ミクログリアやアストロサイトの活性化や炎症を伴っていることが多い。はじめにグリア細胞マーカーや炎症性分子の発現が、いつ頃から変化するか明らかにする実験を行った。眼窩外涙腺を摘出して涙液分泌減少型ドライアイモデルマウスを作製した。本動物の三叉神経脊髄路核を含むように脳幹を冠状断で摘出し、ウエスタンブロッティングで活性化ミクログリアのマーカー(Iba1)および活性化アストロサイトのマーカー(GFAP)ならびに炎症性分子(HMGB1)の変化を検討した。その結果、6週目に一過性のGFAP発現の上昇がみられ、12週目にHMGB1が増加することを明らかにすることができた。さらに、モデルマウスの脳スライスを用いた免疫組織染色を行った。三叉神経脊髄路核中間/尾側亜核の境界領域においてGFAPの発現増加やIba1陽性細胞の形態変化をとらえることができた。また、この部位において神経活性化の指標であるc-fos発現を解析したところ、モデル動物でc-fos陽性細胞の数が顕著に増加していた。
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