慢性創傷に対するb-FGF導入センダイウイルスの使用を検討する準備として慢性創傷がなぜ生じるか、メカニズムを解明する必要があった。Werner症候群(WS)は、難治性の皮膚潰瘍を発症する確率が高い疾患であり、皮膚潰瘍の発生や進行に関与する因子やメカニズムを解明するためのモデルとして有用である。われわれのこれまでの研究により、Werner症候群では、WRNタンパク質の細胞質への蓄積が皮膚潰瘍に関連する可能性が示唆された。またWerner症候群では、リンパ管内の石灰化やリンパ管のリモデリングが皮膚潰瘍に関連する可能性が示された。これらの現象を評価するための指標や手法が皮膚潰瘍にも応用できる可能性がある。これらの成果をさらに発展させるため、①WS患者のリンパ管内皮細胞におけるWRNタンパク質の細胞質への蓄積が、リボソームDNA(rDNA)の不安定性や老化に関連する遺伝子発現の変化にどのように影響しているかを解析することで、WRNタンパク質の細胞質への蓄積が老化に及ぼす分子機構を明らかにする、②WS患者やWSモデル動物のリンパ管内皮細胞を用いて、WRNタンパク質の核内への移行を促進するか、またはWRNタンパク質の細胞質への蓄積を阻害するかするような化合物やペプチドをスクリーニングすることで、WRNタンパク質の細胞質への蓄積を抑制する候補物質を探索する、③WS患者やWSモデル動物から作成したiPS細胞を用いて、リンパ管内皮細胞や他の組織・器官の細胞を分化誘導し、WRNタンパク質の細胞質への蓄積が各種細胞に及ぼす影響を比較解析することで、WRNタンパク質の細胞質への蓄積が老化に関与する組織・器官特異的なメカニズムを解明する、などの方法を現在模索し、準備を進めている。
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