解剖体を用い血管造影を行う本研究において、各造影剤の様々な特性(造影効果、粘性、凝集性、毒性など)から本研究に最適と思われる造影剤が無く、前年度より本研究に適した造影剤の工夫をおこなった。そして、油脂性造影剤(リピオドール)を界面活性剤(PEG-60水添ヒマシ油)、精製水と共に超音波ホモジナイザーを用い乳化することで、低粘性で造影効果の高い造影剤の開発に至った。開発した造影剤を皮下直下で容易に同定可能なリンパ管に注入したところ、良好な造影所見が得られた。造影剤開発に至った具体的な問題点と改善点であるが、ホルマリン固定された解剖体は脈管内がホルマリン(水性)で満たされており、リピオドール(油脂性)単体では注入早期に水と油が分離するため連続した造影所見はこれまで得られにくかった。また、リピオドール単体では粘性が高く、微細な脈管を造影するために留置される30ゲージ針を通過することができなかった。一方、新たに開発した造影剤は、乳化によりリピオドールが親水性となるため、ホルマリン固定脈管内でも分離することなく連続した造影所見が得られた。また、油性インキと共に乳化する事で着色が可能で、乳化処理後2週間の経過においても乳化状態、染色状態は安定していた。これにより、脈管内に造影剤を注入後、2週間経過してもX線造影能は維持されており、実際の肉眼解剖においても造影剤が注入された脈管は高い視認性が維持された。粘性に関しても乳化処理によりリピオドール単体と比べ約1/5に低下させることができ、30ゲージ針での注入も問題なく可能であった。これらの事より脈管解剖における本造影剤の有用性が確認できた。
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