本研究は1悪性腫瘍切除や外傷などによって人体に大きな欠損(遊離皮弁が必要)が生じてかつ適切なレシピエント血管が存在しない場合に体部全域を網羅するレシピエント血管を作成することと2レシピエント血管および皮弁移植後に及ぼされる体循環変化を体系的に評価することを目的とした動物研究である。日本医科大学武蔵小杉病院倫理委員会の承認を得たのち本実験に着手した。 ラットの鼠径動静脈を用いて作成したシャント血管(研究課題でいうループ血管)に腹壁皮弁を移植縫合しその皮弁生着や他合併症を観察した。予定20例に対して、予備実験を含めた計25例で研究遂行した。週齢20週前後のWisterラットを用いたところ血管径が0.4mm程度と細小であり評価が困難であると予想されたため実験期間中途から比較的大きめの個体であるSDラットを交え25-41週齢を用いた。21週齢以降は週齢に限らず平均鼠径動脈血管径は0.8mm、鼠径静脈径は0.7mm、皮弁の動静脈はそれぞれ0.50mm、0.48mmであった。皮弁逢着の72時間以降も合併症なく完全生着した症例は41.1%であった。週齢が若く血管が存外細小であった症例、抗凝固薬を使用しないことで実験中から血栓の形成をした個体があるなどテクニカルな問題もあったと考えられる。しかし血管径が細小であることで開通しなかった症例を除けば全例で皮弁生着し良好なエンドポイントを迎えた。 第28回日本形成外科学会基礎学術集会、第63回日本形成外科学会総会・学術集会で逐次報告を行なった。体循環への影響を調べた血清マーカー採血では科学的な因果関係の証明は行えなかったものの、ループ血管は様々な条件下におけるレシピエント血管不足時に、静脈グラフトを求めるよりも術時間の短縮や合併症の低減が期待できる術式が確立されると考えられる。今後実臨床応用に繋げていくとともに上記結果学術報告を取りまとめる。
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