研究課題/領域番号 |
19K18931
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡部 紫秀 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (30793252)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 顔面神経麻痺 / 神経再支配 / 筋線維の性質変化 / 筋電図 |
研究実績の概要 |
陳旧性顔面神経麻痺の患者に対する自然な表情の再建を目的として、他の部位から採取した筋体を新たな表情筋として移植し、筋収縮を起こす遊離筋移植術が行われている。その際の神経力源として咬筋神経が有用とされてきたが、経験的に咬筋神経のみでは安静時の筋緊張を維持することは困難であった。そこで力源として健側顔面神経を加えたところ、安静時の筋緊張が維持され、より自然な表情を再建することに成功した。この結果から、移植筋体の性質が支配される神経の特性によって影響を受けて変化するのではないかと推察した。筋線維はtype1線維(遅筋)とtype2線維(速筋)により構成されるが、本研究は神経支配を変えることで、筋線維のtypeが変化するかどうかを検討するものである。 2019年度はラットモデル作成のため、手術を多数行った。咬筋神経-舌下神経縫合モデル4頭・咬筋切断モデル2頭を作成し、1, 3か月後の検体を採取し凍結標本を作製した。そのうち1症例に対しNADH-TR染色・蛍光免疫組織化学染色を施行した。また、筋電図学的解析を行うことを検討し、その予備実験として咬筋-舌下神経縫合モデル1頭について術後1か月・3か月で咬筋筋電図検査を施行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
予備実験で作成した咬筋神経-舌下神経縫合モデルにおいて、咬筋の一部を採取しNADH-TR染色を行った。その結果、筋体はどの支配神経を失っても明らかな萎縮を認めなかった。また、コントロール群に比べて縫合群の方が全体的に暗い色調に染色されており、舌下神経支配が追加されたことで、type1線維の割合が増加したことが示唆された。免疫染色においては有意な結果を得ることができなかったものの、神経支配の変化に伴い、筋線維そのものが変化する可能性が高いことを示すことができたと確信している。加えて、倫理指針に基づいて筋電図による咬筋の周波数解析を並行して行っている。 進捗が遅れてしまった原因として、今年度はラットの縫合モデルを作成するにあたり、技術向上に時間を要してしまったことがあげられる。咬筋神経は0.2mm程度とその周径が細いことに加え、剖出に当たっては周囲筋組織からの出血の制御や術野展開の困難さから、その損傷を最小限に抑えることは困難を極めた。術者の手技向上に伴い、剖出及び縫合までの時間の短縮・縫合の整合性については確かなものとなった。 さらに、ラットの手術中における死亡も複数例経験した。死亡例については、手術中の吸入麻酔濃度が高かったことが原因として考えられたため、吸入濃度を下げて手術を行ったところ、その後術中死亡例は経験しなかった。 加えて今回のコロナウィルス感染症の流行に伴う自粛の影響で、実験が中断されたこと・組織検体の外注検査が不可能になってしまったことから実験結果の評価が困難を極めている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
上記に示したような要因により、進捗は遅れていると言わざるを得ない。しかし、多くの問題はすでに解決されている。 令和2年においては、咬筋神経-舌下神経縫合モデルのみならず、そのほかのモデルも多数作成し、その組織学的・筋電図学的な解析を進める。ラットが死亡してしまったり、評価に適した標本作成を行えない可能性を加味し、十分な頭数を使用する。 今後さらに検体数を増やすことで、仮説を裏付けるデータを得ることができると確信している。前半にはおおよその検体を集めることができると考えており、後半にその実績を論文及び学会において発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず、ある程度検体数がそろったのちに免疫組織化学染色を行う予定であったが、ラットの死亡やコロナウイルス感染症の流行に伴う研究規制及び外注検査の停止に伴い、病理学的評価を次年度に繰り越さざるを得なくなったことがあげられる。また、現時点までの成果発表と実験のための情報収集を目的に海外学会への参加を予定していたが、コロナウイルス感染症の世界的な流行によりそのすべてが中止・延期となったため、旅費を予定額まで使用しなかった。 次年度においては、比較的多数の検体を評価しなければならないと考えられ、使用する試薬や外注検査に要する費用に助成金を用いる予定である。加えて、実験結果を成果を発表する場として海外の学会や海外の学術雑誌を検討しており、校正料や旅費等に助成金を使用する予定である。
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