研究課題/領域番号 |
19K18946
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小守 寿人 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 特任研究員 (80770411)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Sp7 / 破骨細胞 / 骨吸収 |
研究実績の概要 |
Sp7は、3つのZnフィンガーを持ち、SPファミリーに相同性を持つ転写因子である。Sp7ノックアウトマウスでは、骨芽細胞の形質を獲得する以前に分化がブロックされて、骨形成が全く起こらない。したがって、骨芽細胞へ分化後のSp7の機能を明らかにするためには、骨芽細胞特異的Sp7ノックアウトマウスが必要である。骨芽細胞特異的Sp7ノックアウトマウスはすでに報告されているが、一方の染色体ではgermlineでSp7を欠失させていること及び使われているCreの欠失効率が不十分であることから、骨芽細胞でのSp7の機能解明に至っていない。そのため、独自に骨芽細胞特異的2.3kb Col1a1プロモーターCreトランスジェニックマウスを作製することにした。Cre発現細胞をGFP(green fluorescent protein)で特定できるように、GFP-Creの融合蛋白質を用い、骨芽細胞特異的にGFP-Creを高発現するマウスを作製することができた。 このトランスジェニックマウスとSp7 floxマウスを交配し、Sp7fl/flCreマウスを作製した。9週齢で組織切片を作製・観察したところ、皮質骨の多孔化が認められ、皮質骨内部に多数のTRAP陽性破骨細胞が認められた。大腿骨のマイクロCT解析では、Sp7fl/flCreマウスの海綿骨量は野生型マウスと有意差を認めなかったが、海綿骨数は増加、海綿骨の骨密度および骨幹部皮質骨の骨密度は低下していた。皮質骨の骨細胞にはTUNEL陽性のアポトーシスが増加していた。骨組織形態計測では、類骨幅が低下していた。週齢による変化を見るために、6ヶ月齢で組織解析およびマイクロCT解析を行ったが、皮質骨の多孔化は減少していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
9週齢でのTUNEL染色を含む組織解析、マイクロCT解析、骨組織形態計測の定量解析が終了し、6ヶ月齢での組織解析およびマイクロCT解析も終了した。これらによって、Sp7fl/flCreマウスの表現型解析の主要項目が終了した。ここで、皮質骨の骨細胞のアポトーシスが多数観察された。 骨細胞がアポトーシスを起こすと、ATPを放出、ATPはマクロファージや単球を引き寄せるとともに、周辺の骨細胞や骨芽細胞にRANKL発現を誘導し、破骨細胞形成を誘導する。また、骨細胞のRANKL発現上昇は、OPGの骨表面への放出を抑制し、破骨細胞形成・活性化を促進する。さらに、アポトーシスを起こした骨細胞は、マクロファージによって貪食されないために、最終的にネクローシスを起こす。ネクローシスを起こすと、細胞内からDAMPs(danger-associated molecular patterns)が放出され、DAMPsは骨細管を通って骨表面に放出され、マクロファージ、樹状細胞、好中球を刺激し、TNFalpha、IL-6、IL-1の産生を促す。これらのサイトカインによって、骨芽細胞はRANKL発現を増加させ、破骨細胞形成が促進される。したがって、Sp7fl/flCreマウスの皮質骨の多孔化および破骨細胞の増加は、Sp7欠損による破骨細胞形成の促進によるというよりも、骨細胞のアポトーシスによる、破骨細胞形成および骨吸収の促進による可能性が出てきた。これは、Sp7fl/flCreマウスの詳細な解析から得られたものであり、当初の予想とは異なっているが、新たな発見である。
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今後の研究の推進方策 |
Sp7fl/flCreマウスで骨細胞のアポトーシスが起こる理由を追求する。当研究室で作製された骨芽細胞特異的にBcl2を過剰発現したマウスでは、骨細管の減少により骨細胞のアポトーシスが増加した。これは、骨細管が減少すると、酸素や栄養が骨細胞に十分行き届かないためと考えられる。このために、まず、大腿骨組織切片を用いて、骨細管染色(銀染色)により骨細管の減少がないか調べる。Bcl2を過剰発現したマウスでは、骨細胞突起の減少が、骨細管の減少の原因であった。そこで、塩酸で骨を溶かし、走査電子顕微鏡で骨細胞突起を観察し、突起の減少がないか確認する。 さらに、大腿骨と脛骨で、骨髄を洗い出したのちに、歯間ブラシで骨芽細胞を集め、RNAを抽出し、骨芽細胞分画RNAとする。また、歯間ブラシで骨髄内の骨芽細胞を除いた後の骨は、外骨膜を取り除いてRNAを抽出し、骨細胞分画のRNAとする。この方法で、骨芽細胞分画と骨細胞分画を濃縮できることを確認している。これらを用い、骨芽細胞分化マーカー(Runx2、Col1a1、Spp1、Bglap2)、破骨細胞関連遺伝子(Rankl、Opg、Ctsk)、骨細胞マーカー(Dmp1、Sost、Phex、Fgf23、Mepe)、アポトーシス関連遺伝子発現をreal-time RT-PCRで調べる。また、アポトーシス関連のタンパク発現をウェスタンブロットで調べる。さらに、血清を用いて、骨吸収マーカーTRAP5b及びCTX、骨形成マーカーP1NPを測定する。 一方、Sp7自身に破骨細胞形成の制御作用があるか確認するために、野生型及びSp7fl/flマウスの新生仔の頭蓋冠からコラゲナーゼ処理で得られた初期培養骨芽細胞にアデノウイルスでCreを導入し、野生型マウスの骨髄細胞とそれぞれ共培養し、TRAP染色及びPitアッセイで、破骨細胞分化及び骨吸収能を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マイクロCT解析および骨組織形態計測の定量解析に十分な数のサンプルを揃えるのに時間がかかり、real-time RT-PCRによる、骨芽細胞分化マーカー(Runx2、Col1a1、Spp1、Bglap2)、破骨細胞関連遺伝子(Rankl、Opg、Ctsk)、骨細胞マーカー(Dmp1、Sost、Phex、Fgf23、Mepe)発現解析が次年度となった。また、血清を用いた、骨吸収マーカーTRAP5b及びCTX、骨形成マーカーP1NPの測定も次年度となった。さらに次年度は、アポトーシス関連の遺伝子発現およびタンパク発現をreal-time RT-PCRおよびウェスタンブロットで調べる。これらに必要なプライマー、real-time RT-PCR関連試薬、TRAP5b、CTX、P1NP測定キット、各種抗体の購入に使用する。また、血清や培養液等、細胞培養に必要な試薬の購入、マウスの維持費に使用する。
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