研究実績の概要 |
モノカルボン酸トランスポーター1(monocarboxylate transporter 1: MCT1)は、モノカルボン酸(乳酸、ピルビン酸、ケトン体等)を細胞内外に輸送する担体である。本研究の目的は骨および骨髄脂肪組織におけるMCT1の機能を解析することである。 申請者はMCT1による細胞内乳酸濃度の低下が間葉系幹細胞からの脂肪細胞分化を負に制御することを見出した。 マウス間葉系幹細胞株C3H10T1/2細胞および3T3-L1細胞をInsulin、IBMX、 Dex(脂肪細胞分化培地)で分化誘導する系において、Mct1 siRNA導入した細胞は、Oil Red O染色(脂肪細胞分化の評価)が濃く染色された。また、脂肪細胞分化マーカー遺伝子(Pparg, aP2, Cd36)の発現量はMct1 siRNA導入により強く促進された。培養液中、L-乳酸(0,10,20mM)を添加し脂肪細胞分化を同様に評価した結果、脂肪細胞分化がL-乳酸濃度依存的に増加した。一方で、C3H10T1/2細胞に骨形成因子(BMP-2)で骨芽細胞分化を誘導する系において、Mct1 siRNAが骨芽細胞分化を抑制的に機能することを見出だした。 次に、質量分析(CE-TOFMS)を用いたメタボローム解析を行い、細胞内の代謝産物を網羅的に解析した。その結果、Mct1 siRNAを導入した細胞では、モノカルボン酸である細胞内乳酸濃度が増加していることが確認された。また、解糖系やTCA回路、アミノ酸などの物質が著しく増加していることから、糖代謝がMct1 siRNAにより亢進する可能性が示唆された。これらから、細胞内乳酸濃度の増加は、脂肪細胞分化を正に制御する可能性が示唆された。
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