私たちはこれまでに細胞の代謝活性をリアルタイムにモニタリングするシステムを構築し、さらに環境因子の一つであるpHが口腔扁平上皮癌細胞の糖・アミノ酸 代謝活性へ及ぼす影響を評価し、一定の成果を得た。 本課題では、これまでに確立した手法を高め、メタボローム的視点も視野に入れながら、他の様々な環境因子や抗癌剤などの薬剤による代謝活性への影響を、単一・複合因子で多角的に比較・検討し、他のがん細胞も含めた検討を行い、口腔がん特有の代謝動態を明らかにすることを目的としており、今まで使用してきた口腔扁平上皮癌細胞株を使用し、細胞周囲の環境を嫌気環境に置いた条件での代謝モニタリン グを継続して行っている。具体的には当研究室の嫌気ボックスシステム内での細胞培養・代謝条件下で実験を行っている。 昨年度はInternational Symposium for Interface Oral Health Science 2022にて嫌気環境での癌細胞のグルコース代謝について正常細胞と異なる代謝活性が確認されたことを発表した。さらに癌細胞周囲の栄養環境が細胞の代謝活性に関わっていく可能性も視野に入れながら実験を進めており、今年度はヒト口腔扁平上皮癌細胞(HSC-2)の増殖や糖代謝、及び2-deoxy glucose(以下2DG)感受性に対する培養時の栄養基質濃度の影響について検討した結果、本細胞は高グルコース濃度下で増殖能、糖代謝能が共に高くなり、2DGへの薬剤感受性が低下することが判明した。したがって抗がん剤使用時に糖尿病などの基礎疾患の存在下では薬剤の効果が薄れる可能性が示唆された。本研究からがんの臨床治療における血中糖濃度の管理の重要性が示唆され、今後は効果的な抗がん剤の使用方法の確立の一助となる可能性を秘めているものと考えられた。
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