研究課題/領域番号 |
19K18961
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
伊東 有希 (信田有希) 岡山大学, 大学病院, 医員 (80771162)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄キレート剤 / 口腔バイオフィルム |
研究実績の概要 |
超高齢社会を迎えた我が国で急増している要介護高齢者は,自身での口腔清掃が困難な場合が多い。口腔清掃が不十分になり口腔衛生状態が悪化すると口腔内に多量のバイオフィルムが蓄積され,口腔感染症だけでなく誤嚥性肺炎等の全身疾患の発症数が増加する。しかし,口腔ケアに医療従事者が費やせる労力や時間は限定されるため,より効率的に口腔バイオフィルム感染を制御する方法の確立が必要である。本研究では生体内の「鉄のコントロール」に着眼して口腔バイオフィルムの制御を目指し,その中でも特に生体に低侵襲である新規鉄キレート剤(スーパーポリフェノール:SP)の口腔細菌に対する抗菌作用に特に注目した。鉄キレート剤による抗菌メカニズムの解明,口腔バイオフィルム感染の制御を通してSPを実用化,超高齢社会の口腔問題解決の糸口にすることを本研究の目的とし,これまで以下の研究を遂行してきた。 1.口腔バイオフィルム構成菌種に対する抗菌効果の検証 口腔バイオフィルム構成菌種のうちStreptococcus mutans(Sm)及びAggregatibacter actinomycetemcomitansを用いて液体培地中の濁度測定を行い,各種SPの抗菌スペクトルを把握したところ,特にSP6とSP10で抗菌効果が高い(300μg/ml以上)ことがわかった。そこでSP6とSP10を主なターゲットにしてSmバイオフィルム形成抑制効果の検討,グラム染色とLIVE/DEAD染色液を用いたSmの形態観察を行ったところ,SPは静菌的に細菌に作用しバイオフィルムに対しても概ね300μg/ml程度で抑制効果があることがわかった。 2.生体安全性の検証 ヒト由来歯肉線維芽細胞に対するSP6とSP10の細胞障害性をMTSアッセイを用いて検証したところ,300μg/ml程度でもin vitroでは細胞障害性を有することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である令和元年度は,新規鉄キレート剤であるSPの口腔細菌に対する抗菌作用の有無の確認とその抗菌スペクトルの把握が主な本研究の研究目標であった。複数のSPで口腔細菌への抗菌性が確認され,効果のあるSPにはキレート構造部分に共通性があること,またその効果は静菌作用によるものであることが明示されたことは大きな第一目標を達成できたと考える。しかし,当初想定していた複数の菌種で未だSPの効果を検討できていないこと,またシデロフォア産生性の比較ができていないことは今年度の要検討課題となる。 また,in vitroでのヒト由来歯肉線維芽細胞に対するSPの細胞障害性の検討実験では,想定していたよりも低濃度で細胞への障害性が確認されたため,今後はより多様な細胞において網羅的に細胞障害性を検討する必要性が生じたと考える。結果次第でSPの実用化における使用用途の決定が大きく左右される。 以上のことから,本研究の現段階での進捗は概ね順調に進行しているが,研究当初想定していたよりも検討課題が増えたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
1.口腔バイオフィルム構成菌種に対する抗菌効果の検証 残された検討課題である他菌種でのSPの抗菌性有無の確認と,各菌種のシデロフォア産生性の定量性real-time PCR法を用いた検討を行う。 2.細胞障害性の検証 SPの応用模索のため,より多様な細胞においてその障害性を検討する。 3.鉄キレート剤がラット口腔細菌叢に及ぼす影響の検証 研究当初の予定通り,飲料水中に溶解させたSPを常時供給可能な状態で投与する。5匹から10匹の若齢ラットと同等数の高齢ラットにSP含有の飲料水または普通の飲料水を1ヶ月間投与する。その後,口腔と糞便より採取した細菌叢を次世代シーケンサーで解析する。上記解析とともに,SP投与に伴う生存曲線,臓器障害性の有無,体重や食事摂取に及ぼす影響等の安全性試験を同時に実施して基礎データも収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画より消耗品の消費が節約できたため,経費の使用節減に繋がり未使用額が生じた。今年度は動物実験や次世代シーケンサーを用いた解析の実施に伴い研究費用の増大が見込まれるため,有効活用したい。
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