申請者はこれまでに、ブルセラ属菌、リステリア属菌といった感染による流産を引き起こす細菌の病原性および宿主側因子の解明を行ってきた。近年、次世代シーケンサーの発展・普及により菌叢解析が比較的容易になり、口腔内細菌と全身症状との関連が報告されるようになった。関連が報告された全身症状の一つとして、流産・早産・低体重児といった産婦人科疾患が挙げられている。そこで、口腔細菌と産婦人科疾患との関連を明らかにしようとしたが、動物モデルが存在しなかった。そのため、まず感染によるマウスモデルの構築を行い、そのモデルを用いた口腔細菌による産婦人科疾患の発症メカニズムの解明を企図した。 本研究では、①産婦人科疾患モデルの作製、②産婦人科疾患モデルにおける基礎的データの収集、③HO-1と流産の関連に関する検討、④栄養膜巨細胞への感染実験を行う予定である。2019年度および2020年度は①産婦人科疾患モデルの作製を試み、妊娠ICR系マウスにPorphylomonas gingivalis(歯周病原菌のひとつ)を投与することにより、高頻度に胎児が死亡することが認められた。一方で、感染によって母マウスの死亡、体重の著しい低下などは認められなかった。これらの結果から、ICRマウスを用いた流産モデルの作製が可能であることが示唆されたが、結果の安定性が十分ではなく構築には至らなかった。 そこで、2021年度はモデル作製に向けて引き続き詳細な条件の検討を行い、モデルの作製および最適化を試みた。その結果、菌株・培養条件・調整方法・投与条件によって胎児への影響に著しい差が認められた。これらの結果は、モデル作製において重要なデータである。
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