現在の低ホスファターゼ症(HPP)の治療法では、胎生期に症状が進行する本疾患には対応できない。一方で、組織非特異的プロモーターによる胎児遺伝子治療は、ウイルスベクターにより遺伝子導入されたすべての臓器で酵素が過剰に発現するため、主要臓器への影響や生殖細胞への影響など安全面での課題が残されている。そこで本研究では、標的臓器に長期安定して酵素供給ができ、治験で安全性が確認されている筋肉に限定した遺伝子発現の下、胎児遺伝子治療法を検討することで、安全性を確立した新規胎児遺伝子治療法の開発を目的とした。 まず、筋特異的プロモーターである筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターを改変したeMCKプロモーター制御下に治療酵素アルカリフォスファターゼ(ALP)を発現する血清型8型のAAVベクター(AAV8)を作製した(AAV8-eMCK-ALP)。その結果、ほぼ筋肉に限局した発現でありながら、既存の組織非特異的プロモーターであるチキンベーターアクチンプロモーターと同程度にALPを発現する能力を持つことがわかった。 次に作製したAAV8-eMCK-ALPを、胎生16日から18日齢で①母体マウスに治療用AAVベクターを腹腔内投与もしくは②母体マウスを開腹し、子宮膜上より胎児マウスにAAVベクターを腹腔内投与し、治療実験を行った。その結果、①の方法では治療マウスにAAV8-eMCK-ALPの分布は確認されず、血中ALP活性の改善も確認できなかった。 そこで、②に手技をしぼり治療実験を行った。その結果、母体マウスの分娩に特に異常は認められず、その後も正常な子育てが行われていることを確認した。また、治療したHPPモデルマウスに関して、延命効果、痙攣発作の抑制、血中LP活性の上昇および維持、正常な体重増加および骨の形態不整の改善や石灰化不全の改善が確認された。
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