口腔癌の中でも舌扁平上皮癌は、診断と治療法の進歩により近年の5年生存率は飛躍的に向上してきたが、治療抵抗性の患者予後は未だ不良であり、新たな治療法の開発が切望されている。しかし、口腔扁平上皮癌に対する有効な治療薬の開発は未だ停滞している。そのため、口腔癌の予後の決定因子である浸潤・転移の分子機構の解明とそれに基づく新規治療法の開発は、口腔外科領域において重要な研究課題である。癌細胞の特徴は、無限の増殖と浸潤転移能であり、増殖性に対する制御に関しては、抗癌剤に加え、分子標的薬やがん免疫療法の開発が精力的に展開されている。しかしその一方で、浸潤転移能に関しては、関係している複数の分子経路は近年明らかにされてきたが、制御法の確立には至っていない。そこで、細胞膜活性脂質sphingolipidの代謝経路におけるsphingosinのリン酸化とその細胞膜受容体S1PRの検討を行った。SphK1高発現群と低発現群における比較検討において、年齢、性別、分化度に有意差は認めなかったが、浸潤様式との相関を認めた。SphK1発現と浸潤様式を系統的に検討すると、grade3以上の高gradeでは発現に明らかな有意差は認めなかったが、grade1やgrade2などの低gradeでは、腫瘍細胞はより弱い発現が認められた。また、Sphk1発現とS1PRに関しては、S1PR4との相関が認められた。以上の結果から、検討課題は残すものの、SphK1発現は舌扁平上皮癌を評価するうえで重要な客観的因子となり得る可能性が示唆された。
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