まず、正常なヒト凍結未固定検体である錯角化重層扁平上皮(歯肉、口蓋)および非角化重層扁平上皮(頬粘膜、舌側縁)を用いたRNAシークエンス解析および定量PCRの結果より、口腔において最終分化した状態である錯角化に寄与する遺伝子候補としてロリクリンを選出した。 次に、ヒト表皮の3次元培養法をヒト歯肉上皮初代細胞に応用することで、上皮細胞が積層化し経時的な分化を示す錯角化重層扁平上皮を再現することができた。培養8日目において、ロリクリンは重層扁平上皮の上層の細胞質内にびまん性に局在し、同部位に本基質の代表的な架橋酵素であるトランスグルタミナーゼ3も認められた。その後、11日目から14日目にかけてロリクリンを含んだ錯角化層の形成および剥離がみられた。したがって、口腔粘膜上皮はロリクリンおよび架橋酵素であるトランスグルタミナーゼ3の細胞内局在に伴い、錯角化をきたすと考えられる。 最後に、このヒト歯肉上皮初代細胞を用いた3次元培養を口腔癌細胞株へ応用し、口腔の表層分化型の上皮内癌の再現を試みた。その結果、舌由来の扁平上皮癌細胞株(HSC-3)は下層から上層向かって、異型を示す基底細胞様細胞、有棘細胞様細胞および角化細胞様細胞の細胞へと積層化し、分化勾配を示す分化型上皮内癌に類似する組織を構築することができた。この口腔の分化型上皮内癌モデルは、免疫組織学的にもサイトケラチン13陰性、サイトケラチン17陽性、Ki-67の基底第一層への移行およびp53の消失を示し、上皮内癌として矛盾しない免疫形質が再現された。さらに、他種の扁平上皮癌細胞株(HSC-4)を用いて基底細胞様細胞が表層直下まで占拠する基底細胞型の上皮内癌に類似した3次元モデルを再現することにも成功している。以上より、異なる分化を示す2種類の上皮内癌のvariantモデルを確立することができた。
|