研究課題/領域番号 |
19K18975
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研究機関 | 奥羽大学 |
研究代表者 |
眞島 いづみ 奥羽大学, 歯学部, 講師 (60770782)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 健口 / 唾液マイクロバイオーム / Veillonella属細菌 / 新菌種 / ゲノム解析 / 新規エネルギー代謝経路 / 糖代謝 / メタボライト |
研究実績の概要 |
2019年度の本研究実績より、健口マイクロバイオームの優勢細菌群として偏性嫌気性菌であるVeillonella属細菌が証明された。2020年度は、その研究過程において複数分離された本属細菌の新菌種候補株の解析からスタートした。 新菌種提唱にあたり、複数のハウスキーピング遺伝子の相同性解析及び系統樹解析をはじめ、各種生化学性状検査、全ゲノム解析を行った。その結果、2種類の新菌種候補株の確立に成功し、それぞれの標準株を国際的微生物保存機関(JCM, CCUG)に寄託した。また、そのうち1菌種はVeillonella nakazawaeと命名し、新菌種として発表、登録を行った(Mashima I et al., Int J Syst Evol Microbiol, 2020)。 また、本マイクロバイオーム解析において優勢細菌群として同定された新菌種を含めた口腔Veillonella全8菌種において、それぞれの全ゲノム(Mashima I et al., Microbiol Resourc Announc, 2021)もしくはドラフトゲノム解析を行った。さらに、得られたCDS情報に対してKEGGデータベースを参照し、保存されている代謝経路の特定を行った。その結果、これまで本属細菌では全く報告されていなかった解糖系エネルギー代謝経路に関わる遺伝子群の保存が、口腔Veillonella全8菌種に確認された。本研究成果は、2019年度に口腔Veillonella数菌種と糖基質を用いた際の、実際の糖代謝現象を確認した我々の先行試験の結果を支持すると考えられる。 健口マイクロバイオームのモデル化を進めるにあたり、本優勢細菌群が遺伝的に保存するエネルギー代謝経路を全て明らかに出来たことは、今後メタボライト情報取得していく上での確実な導線を得ることができたと確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に引き続き、他の複数コホートの唾液サンプリングを含めたマイクロバイオーム解析を継続する予定だったが、新型コロナウィルスの世界的感染拡大により、サンプリングの中止を行わざるを得なかった。現在もその再開の目途が立っていないため、他コホート群健口マイクロバイオームの追加解析は断念し、すでに優勢細菌群として同定されているVeillonella属細菌を中心に、健口マイクロバイオームのモデル化を進めている。 また、Veillonella属細菌の解糖系を中心とした新規エネルギー代謝経路の確定を目的とし、代表的2菌種(V. parvula及びV. atypica)を選定し、糖を基質とした際のGrowth CurveとCFUの経時変化、そして、これまで報告されている本属細菌の主たるエネルギー源である乳酸と、糖を濃度別に共基質とした場合の増殖効率と培養条件を比較解析中である。 さらに、新菌種候補株の残り1種類のVeillonella属細菌未同定株について、新菌種の提唱準備(投稿準備)を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究成果により明らかになったVeillonella属細菌の新規糖代謝の全経路の確定を進める。同時に、健口マイクロバイオームのモデル化に向け、優勢細菌群として同定されたVeillonella属細菌の新規糖代謝経路を含むメタボライト情報の取得を以下の要領と手順で進める。 1. 培養条件の選定:V. parvula及びV. atypicaの代表的2菌種標準株を用いて、糖代謝経路の最も発現されやすい培養条件を選定する。2.中間代謝産物の同定:先のゲノム解析において保存されていることが明らかとなった糖代謝関連遺伝子群により設計される糖代謝経路の中間代謝産物をCE-TOFMSを用いたメタボローム解析により同定する。供試株は上記1.にて選定した培養方法に則り調整を行う。3. メタボライトの同定:基質及び濃度別に培養した上記2菌種の培養上清中の終末代謝産物を口腔Veillonellaのメタボライト情報として集積する。同定にはLC/MS, GC/MSを用いる。 また、口腔Veillonella全菌種のゲノム解析結果を利用し、Pan-genome解析を応用した追加解析を行う。本解析により、本属細菌が保有する代謝経路の遺伝学的重要性や必要性について考察し、健口マイクロバイオームに関する情報の拡充を図る。 さらに、被検者唾液中におけるメタボライトを同定し、健口マイクロバイオーム優勢細菌であるVeillonella属細菌由来のメタボライト情報と合わせて相互解析を行う予定ではある。しかし、新型コロナウィルス感染拡大により、唾液のサンプリングが極めて困難な状況下にある。そのため、本解析に関しては今後の感染状況の様子をみながら、解析の実効性を判断していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言の発令や、福島県沖地震発生の影響により、投稿中の論文のReviseに係る追加実験に遅れが生じてしまったため、2020年度内に出版を予定していた論文が次年度になってしまった。そのため、支払予定だった当該論文のOpen Access費用分が次年度使用額として生じた。 生じた次年度使用額に関しては、既に当該論文のOpen Access費として支払い手続きを進めている。
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