研究課題
う蝕は感染症であり、ミュータンスレンサ球菌(Streptococcus mutans)は、う蝕の発生に重要な役割を果たす。S. mutans は母子伝播することが多く、感染を防ぐことは難しい。これらう蝕原生菌は飲食物に含まれるスクロースなどの糖類を原料として乳酸を産生して歯質を脱灰する。酸産生能は細菌の数に比例する。つまり口腔内のS. mutans などのう蝕原生菌を減らすことはう蝕の発生を減らすことに繋がる。う蝕の予防を目指した歯科材料として、これまで、フッ素徐放性のセメントの間発が行われてきた。フッ素には、歯の主成分であるハイドロキシアパタイトの水酸基と置換されることにより脱灰に抵抗性のあるフルオロアパタイトを形成する効果や、歯面の再石灰化を促進する効果がある。しかし、最も病原性の高いう蝕原因菌であるS. Mutans に対して、その代謝を抑制する効果はあるが、殺菌効果は持たない。持続的にS. Mutans を殺菌する機能を付与した歯科材料として、これまで銀ゼオライトなどが研究されれてきたが、銀による黒変(審美性の低下)や、唾液などに存在するイオンと結びつき銀イオンが失活する、などの問題があり、実用化に至らなかった。う蝕予防として日頃の歯磨きが重要であるが、歯磨きで菌の数を減らしても、しばらくすると元通りに戻る。マウスウォッシュなどの抗菌作用も効果は一時的である。市販のうがい薬に含まれる殺菌剤(塩化セチルピリジニウム:CPC)は、S. Mutans など口腔内細菌の殺菌には有効であるが、この薬剤を従来の歯科材料へと含有・塗布しても、口腔内環境へと容易に遊離・拡散してしまい、持続的な効果は得られない。そこで本研究では、ナノサイズの細孔を持つ多孔質シリカ粒子(NPS)に着目して、長期徐放・大容量充填可能な薬剤徐放のキャリアとしての適性の検討を行う。
2: おおむね順調に進展している
計画初年度の2019年は、ナノ細孔を持つ多孔質シリカ(NPS)を市販の歯科修復材料と混和した複合試料を作成し、その機械的強度へのNPS 混入量の影響を検討した。次いで、得られた複合試料を薬剤モデル化合物水溶液へと浸漬した後、蒸留水へと浸漬し、その上澄液への薬剤モデルの長期間に渡る放出挙動について検討したところ、口腔内細菌の殺菌剤として知られる塩化セチルピリジニウム(CPC)と同じく正に帯電したモデル薬剤化合物を数週間に渡り、上澄液へと徐放する様子が確認された。NPSを含有しない試料の場合には、モデル薬剤の徐放が短期間のうちに見られなくなることからも、NPSによりモデル薬剤が複合試料に吸着され、その後情報されていると考えられる。
計画2年目には、1年目に用いたモデル薬剤のみならず、性質の異なる他種の化合物との比較検討を行い、徐放機構の解明を試みる。また、実際に殺菌剤CPCを用いた徐放挙動の検討を行う。更に、アパタイト片や動物の歯牙を用い、疑似齲蝕を作成し、そこへと充填した材料からの徐放挙動の観測を行い、新規材料の実証性についての基礎的な検討を行う。
薬剤徐放実験について、本研究実施以前の予備試験時に購入した原料から使用しており、予想しているほどには消耗品の購入費がかからなかった。また、動物の抜去歯を用いた実験の開始準備がやや遅れているため、次年度使用額が生じた。
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J. Nanoscience and Nanotechnology
巻: 20 ページ: 2668-2674
doi.org/10.1166/jnn.2020.17473