本研究は糖尿病合併症の発症・進行に関与する因子である終末糖化産物(AGE)と歯周病原細菌由来リポ多糖(P-LPS)が、骨細胞における細胞間情報伝達機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的として開始した。骨細胞は細胞間で樹状の突起を伸ばし、ギャップジャンクションおよびヘミチャネルを介して情報伝達を行なっていることが明らかとなっている。Connexin(Cx)およびPannexin(Panx)は情報伝達に重要な蛋白であり、骨細胞では特にCx43およびPanx1、Panx3が強く発現している。 マウス由来骨細胞株MLO-Y4-A2にAGEを短期間(24時間)作用させた後、RNAを回収し、ギャップジャンクション・ヘミチャネルに関与する因子の発現をReal time PCR法で分析した。しかしCx43およびPanx1、Panx3の変化は認められなかった。一方、長期間(7日)作用させた後に再度遺伝子発現を分析したところ、著明な発現現象が認められた。同様にAGEを長期間刺激させた後、蛋白発現についてWestern blot法で分析したが、同じ傾向が認められた。次に骨細胞のギャップジャンクションにおけるATP輸送能を調べるため、MLO-Y4-A2細胞にAGEを一定期間作用させた後、Lucifer yellow染色試薬を用いてスクラッチテストを行った。蛍光顕微鏡視野で染色部位を検出したところ、AGE添加群では染色部位が著名に減少していた。 以上の結果より、AGEは骨細胞におけるCx43、Panx1およびPanx3の発現を抑制し、さらにギャップジャンクションにおけるAPT輸送能も抑制することが明らかとなった。P-LPSとの関連および抑制メカニズムなど十分に解明されていない点もあるが、骨細胞へのAGEの新たな影響が明らかになったと言える。
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