研究課題/領域番号 |
19K19000
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
坂本 英次郎 長崎大学, 病院(歯学系), 講師 (70771624)
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研究期間 (年度) |
2022-12-19 – 2026-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 骨細胞 / 終末糖化産物 / AGEs / 骨粗鬆症 / ギャップジャンクション / ヘミチャンネル |
研究実績の概要 |
2019年度の結果を踏まえ,さらに研究を発展させるため2型糖尿病モデルマウス"db/dbマウス"を用いてin vivo実験を開始した。10週齢のdb/dbマウスの大腿骨および脛骨から採取した骨細胞を調べたところ,connexin43およびpannexin3をそれぞれコードするGja1, Panx3遺伝子が有意に減少していた。一方,pannxin1の発現は変化が認められなかった。また脛骨のマイクロCTを撮影したところ,db/dbマウスの海綿骨量は有意に現象していたため,これらギャップジャンクション,ヘミチャンネルフォーミングプロテインの発現変化が骨の骨量に影響を与えている可能性が考えられた。これらの結果から,そのメカニズムを詳細に分析するため培養骨細胞に終末糖化産物(AGE)を作用させるin vitro実験を開始した。2019年度の結果に加え,初代マウス骨細胞においてもconnexin43およびpannexin1の発現減少を確認した。AGEはRAGE(receptor for AGE)を介してシグナルを伝達していることが報告されているため,siRNAを用いてRAGEをノックダウンした。RAGE-KD骨細胞ではAGEによる遺伝子発現減少効果が有意に抑制された。また細胞内のROS活性,NF-kBのリン酸化を調べたところ,両シグナルともに明らかな活性化が認められた。さらにこれらのシグナルに対する特異的阻害剤を用いたところ,同様にAGEによる遺伝子発現減少効果の抑制が認められた。このように糖尿病においては骨細胞間の情報伝達を制御するタンパク発現の抑制が認められ,その作用はRAGE/ROS/NF-kBシグナルを介している可能性が示唆された。現在,このメカニズムをさらに深く掘り下げることを目指すと共に,歯周病との関連について実験を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の実験において終末糖化産物が骨細胞のチャンネルフォーミングプロテインの発現に影響を及ぼすことがin vivoおよびin vitroで確実に示され,またその細胞内シグナル経路も明らかとなった。これは当初の計画よりもやや早い進捗状況と言える。しかし一方で,以下の2点において不明な点が残っている。1点目は骨細胞におけるチャンネルフォーミングプロテインが実際に細胞間情報伝達にどのような影響を与えているか不明な点である。骨細胞は骨細胞同士のみならず,他の細胞腫,例えば骨芽細胞などとも情報伝達を行なっている可能性があるため,どのようなメカニズムで骨代謝が制御されているか掘り下げる必要がある。もう1点はこれらのメカニズムが実際に歯周炎の発症・進展にどのような影響を与えているか不明な点である。現在,歯周病原細菌Porphyromonas gingivalis由来リポ多糖がチャンネルフォーミングプロテインの発現に影響を与えているというデータは得られていない。しかし糖尿病環境においては,何らかの影響を与えているという可能性は否定できない。この点においては,さらなる実験と検討が必要である。以上より,糖尿病因子に関わる実験は当初の計画以上の結果が得られたが不明な点が2点あるため,総合しておおむね順調に進展していると結論づける。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように,研究を完遂させるためには2点の問題点を解決する必要があると考える。1点目の骨細胞情報伝達にいかに関与するかについては,現在チャンネルフォーミングプロテインの発現を欠失するトランスジェニックマウス(以下,KOマウス)を作製するため,長崎大学先端ゲノム研究センターと連携を取っている。KOマウスが得られたら,骨細胞を採取し骨代謝に関わる因子がどのように変化しているか次世代RNAシークエンス技術を用いて網羅的に分析を行う予定である。また,KOマウスから採取した骨細胞を正常な骨細胞または骨芽細胞と共培養することにより,どのような影響を与えるのか実験を行う予定である。もう1点のチャンネルフォーミングプロテインの発現変化が歯周炎の進展のどのような影響を与えるのか,という点においては,実際に2型糖尿病モデルマウス"db/dbマウス"に歯周炎を惹起させる予定である。歯周炎の病態モデルにはいくつかあるが,今回の研究課題では歯周病原細菌由来LPSとの相互的作用に着目しているため,マウスの口腔内に歯周病原細菌を感染させるモデルを使用する。糖尿病によりLPSの骨破壊作用がさらに加速されるため,これを糖尿病関連歯周炎モデルとして実験に用いることができると考えている。このモデルマウスにギャップジャンクションの活性化を促すアクティベーターを投与し,歯周炎の病態がどのように変化するか検討する予定である。さらにdb/dbマウスのみならず上記KOマウスに歯周炎を惹起させ,直接的にチャンネルフォーミングプロテインが歯周炎に与える影響についても検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に発注を予定していた試薬類の納期が遅れたため,年度内に使用できなかった予算が生じた。これらを含め,次年度においては計画書に従いマウス,実験試薬類,プラスチックディッシュ・チップ・チューブなどの消耗品などを購入する予定である。またこれまでの実験成果を国内学会および国際学会で発表するため旅費および参加費に使用する予定である。現在,米国骨代謝学会年次大会および日本歯周病学会秋季大会にて発表するべく調整を行なっている。
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