本課題では、MEST導入ヒト歯根膜細胞における歯周組織再生能の検討、ならびに、歯根膜細胞の幹細胞転換を制御する転写因子および下流シグナルの解明を、二本の柱として研究を進めてきた。 MEST導入ヒト歯根膜細胞(2-52_MEST)における歯周組織再生能について検討するため、細胞の組織形成能の評価方法として当研究室にて確立し広く用いているマウス背面皮下細胞移植モデルを用いて解析を行った。その結果、2-52_MEST移植マウスにおいて、硬組織および歯根膜様組織の形成は認められなかった。そこで、同じくMESTを高発現する歯根膜細胞(当研究室にて、iPS細胞から誘導した歯根膜幹細胞様細胞)を用いて同様の解析を行ったところ、H.E.染色およびマッソン・トリクローム染色にて陽性反応が認められた。今後、この細胞と2-52_MESTの遺伝子発現および生物学的活性の違いについて解析を進めることで、歯周組織再生に効果的に作用する歯根膜幹細胞転換法を確立していこうと考えている。 また、MESTによる歯根膜幹細胞転換を制御する転写因子を同定するため、まず、2-52_MESTを用いたマイクロアレイの結果から候補因子としてHOXD8に着目し解析を行った。その結果、2-52_MESTにおけるHOXD8発現をsiRNAによりノックダウンすると、幹細胞マーカー発現および骨芽細胞様分化能が低下することが明らかになった。このことから、MESTによる幹細胞転換にHOXD8が関与する可能性が示唆された。さらに、(当研究室にてクローニングにより単離した)HOXD8を高発現するヒト歯根膜細胞株と、2-52_MESTの遺伝子発現様式を比較検討したところ、数種類の転写因子およびシグナル因子が共通して高発現していることが明らかになった。今後はこれらの因子に焦点を当て、歯根膜幹細胞転換の、より詳細なメカニズムを解明していく所存である。
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