本研究は、過酸化水素光分解殺菌法の多菌種バイオフィルムに対する殺菌効果と歯質脱灰進行抑制効果を実証し、新しい齲蝕治療法の基盤技術を確立することを目的として行っている。 これまでに、多菌種で構成された実験的バイオフィルムモデルについてのデータを構築し、殺菌試験により過酸化水素光分解殺菌法の高い効果を確認した。この結果は、本殺菌法のデンタルプラークに対する殺菌効果を示唆するものである。また、ラット歯上に主要な齲蝕関連細菌として知られるStreptococcus mutans バイオフィルムを形成し、ex vivo 試験モデルを確立した。 本年度はこれまでの研究結果を踏まえ、脱灰(齲蝕)進行抑制効果の検証をラット歯ex vivo モデルを用いて行い、過酸化水素光分解殺菌法で90秒処理することにより象牙質の脱灰進行を抑制できることが分かった。更に、in vivo 試験としてラットに齲蝕を誘発させ、ex vivo の結果を参考に処理時間を90秒に設定し本殺菌処理を行った。複数の処理群のサンプル上で未処理群よりも齲蝕範囲が小さい現象が観察され、ex vivo 試験の結果と同様の傾向が認められた。しかしながら、個体差が大きいこともあり、今後条件設定および実験手技等を更に詳細に検討しサンプル数を増やす必要性も、同時に示唆される結果となった。 一連の研究を通して、本殺菌法の齲蝕治療法としての可能性が示唆された。未だ、多くの人が経験する疾病である齲蝕に対する効果的な治療法を確立することは、社会的に重要な研究であり、本研究は本殺菌法の臨床応用に向けた基盤を築けた点で大変意義があるものと考える。
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