本研究は、当初、脱落・再植歯に遅発性の歯髄変性と歯根吸収が生じる病態モデルに対して酸素UFB水を作用させ、その治療効果を検証することであった。しかし、2020年度4月から新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言のため、約3ヵ月間に渡って研究活動が停止されたことと、5月に新しい部局責任者が就任したことに伴い実験施設の大幅な改修、実験計画の抜本的な見直しを行った。この影響は、2021年度にも継続し、断続的な緊急事態宣言による就業制限も生じていたため、具体的な研究計画の見直しは随時余儀なくされた。 本研究は、低酸素環境における口腔組織の挙動を正確に把握する必要があるため、先行研究を参考に低酸素分圧における口腔由来細胞の増殖や生存性の調査を行った。先行研究において、口腔由来細胞の多くに低酸素分圧下における増殖の亢進が報告されていたが、本研究において、マウス歯髄由来細胞(MDP)、ヒト歯肉由来線維芽細胞(HGF)、ヒト過剰歯由来歯小嚢細胞(DFC)に対し、同様の調査を行ったところ、酸素分圧が10%、1%と低くなる程、増殖の抑制傾向を認めた(未発表情報)。先行研究とは異なる結果が出ている機序について、細胞の増殖や生存性が、酸素環境だけでなく、細胞の株化の程度や、由来の器官等の様々な要素によって、変化を示している可能性が示唆されているが、一定の結論に達することが難しかったため、論文投稿や学会発表には至らなかった。
本研究は、具体的な実験計画の変更はあったが、外傷によって生じる歯髄や歯周組織の損傷を循環障害の面から評価し、その治癒を促す治療法の探索を目指すという着想に臨床的・学術的な意義があることは確かと思われるため、外傷歯の病態モデルの作製と、その治療方法の探索を今後も継続する。
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