本研究の目的は,外膜小胞の機能を追求することにより,耐性菌の出現を惹起する抗菌成分に依存したバイオフィルム制御の弊害を克服するべく,非抗菌剤に着目した新規制御法の確立であった。 本研究では,(1)ストレス応答時の外膜小胞内容物の局在と(2)非抗菌剤による付着抑制メカニズムの解明と2つの課題を設定した。課題(1)については,初年度に,Calgary Biofilm Device (CBD)を利用した系では,外膜小胞が非常に微量なため,その検出は困難であることが判明した。一方で,バイオフィルム形成過程において,sub-MICのCHX作用によるストレス応答が,抗菌成分による制御法の限界を示唆するデータが得られた。 最終年度は,課題(2)について,非抗菌剤である,機能性糖脂質ビザンチン(Viz-S)の付着抑制メカニズムの検証を行った。Viz-S は,GTFDのタンパク発現を低下させることによるバイオフィルムの構造安定性の低下と,S. mutans の菌体表層に結合することで表面性状を親水性に変化させることが明らかとなった。これら2つの機序により,S. mutansに対して付着抑制効果を示すと考えられた. このin vitro研究の制限内で,Viz-Sは,殺菌剤としてではなく、バイオフィルムの構造的安定性を低下させることによって剥離促進剤として作用することを見出した。抗菌成分に依存することなく,さらに,耐性菌を出現させる心配のない,新規う蝕制御法の開発の一端となる可能性がある。
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