口腔から血行性に感染し,感染性心内膜炎の起炎菌にもなる歯周病細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitans(Aa菌)は細菌のRNAシャペロンであるHfqがsmall RNAを利用して,どのような病原遺伝子の転写後発現制御をしているかを検討した。これまでに我々はAa菌標準株であるATCC29523株(親株)を使用してhfq遺伝子欠損株(hfq欠損株)を作成した。今回我々は,どのような病原因子にHfqが関与しているのかを調査した。 Aa菌は上皮細胞内に侵入(感染)することが出来るが,細胞内に侵入する際に足場となる細胞外マトリックスへの付着,バイオフィルム形成能を評価したところ,ラミニン以外のコラーゲンType1,コラーゲンType4,フィブロネクチンへ強固に付着することができ,hfq欠損株では親株と比較して優位にバイオフィルムの形成能が低下した。さらに血管内皮細胞(HUVEC)へAa菌を共培養して感染させたところ,hfq欠損株では親株と比較して優位に細胞内に侵入した細菌数が低下した。また同様にHUVECに感染させたAa菌の遺伝子発現を リアルタイムPCR法で解析したところ,親株と比較してhfq欠損株では細胞接着や感染に関与しているflp1,rcpA,rcpB,tadA遺伝子の発現量が顕著に低下していることが分かった。これらの結果からAa菌においてHfqは上皮細胞に付着してに感染する際に重要な遺伝子群の発現を制御している可能性が示唆された。 次に我々は持続的な感染モデル(マウス背部皮下チャンバー モデル)を使用してAa菌と宿主の免疫応答を調査した。コイル内でのAa菌生存率や浸潤してくる免疫細胞の総数や死細胞数は感染後24時間まではhfq欠損株とその親株とで変化はなく,免疫細胞障害や免疫細胞からの回避といった因子にはHfqは関与してないのかもしれない。
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