研究課題/領域番号 |
19K19029
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西藤 法子 広島大学, 病院(歯), 助教 (40735099)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | semaphorin7A / 歯髄炎 |
研究実績の概要 |
齲蝕や歯の破折等で歯髄が感染し、炎症の波及が抑止できない歯髄は不可逆性歯髄炎となり抜髄が行われる。近年、歯内治療の検査や器具、材料は進歩しているものの、根本的な治療方法や診断はほとんど変わっていないのが現状である。そのため歯髄感染後の炎症制御が歯内治療において重要であり、可能となれば抜髄することなく歯髄を保存することができる。そこで、本研究では不可逆性の歯髄炎の炎症制御として、神経細胞の神経軸索ガイダンス因子として同定され、セマドメインを有するSemaphorin7A(Sema7A)に着目した。Sema7Aは骨代謝、癌の形成、免疫などで関与が報告されており、歯の構成組織の1つである象牙芽細胞での発現が確認されている。また、炎症においてSema7Aは炎症促進に関与しているとの報告から、歯髄炎におけるSema7Aの関与と不可逆的歯髄炎に至る増悪因子として機能している可能性を考えた。 Sema7Aのリコンビナントタンパクと抜去歯牙から採取したヒトの歯髄細胞を用いて、不可逆性歯髄炎で産生が上昇する炎症性サイトカインの1つであるTNF-αで誘発した炎症惹起下での反応を検討した。使用した歯髄細胞にはTNF-αの受容体とSema7Aの発現をWestern Blotting法で確認した。TNF-αとSema7Aで刺激した歯髄細胞の培養上清からはTNF-α単独で刺激した時よりも、IL-6とIL-8の分泌量が増加傾向を示した。また、TNF-α単独刺激よりもIκB-αの分解が促進され、ERKのリン酸化を促進する傾向を確認した。 これまでの結果から、Sema7Aは歯髄細胞の炎症時に炎症促進因子として機能している可能性が示唆されるが、明確な再現性はまだ得られておらず、今後さらなる検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はin vitroの実験系を中心に実験を行った。検討する歯髄細胞として、治療のため便宜的に抜歯した歯牙から採取した歯髄由来の細胞(E-133)を使用した。 まず、使用した歯髄細胞にSema7Aの受容体が存在するかを、Western Blotting法で確認した。その後、歯髄細胞の培養上清にヒトrecombinant Sema7A(rhSema7A)を加えて刺激した細胞で、rhSema7Aの濃度によって細胞増殖も遊走も変化がないことを確認した。細胞増殖はクリスタルバイオレット染色し、遊走能はスクラッチ法を用いて確認した。 Sema7Aの歯髄細胞における炎症反応時の機能を検討するため、歯髄細胞の炎症誘導因子としてTNF-αを用いた。刺激後24時間培養した細胞の培養上清中に含まれる炎症性サイトカイン(IL-6,IL-8)及びCCL-20の量をELISA法で測定した。rhSema7A単独刺激した細胞群ではどれも無刺激と比較して差はなく、培養上清中への分泌は認められなかった。TNF-αの単独刺激によって分泌量したIL-6、IL-8、CCL-20は、rhSema7AとTNF-αの共刺激した場合、より分泌量が減少することはなく増加している傾向が認められた。またNF-κB、ERK、JUNK、p38の阻害剤を用いたところ、JNKの阻害剤以外の阻害剤での分泌量の明らかな減少を確認した。しかしながら、rhSema7Aによる分泌量の増加は十分に再現性が得られることができず、Sema7はTNF-歯髄細胞から分泌されたIL-6、IL-8、CCL-20を抑制しないことが確認できた。また、Western Blotting法でTNF-α単独刺激よりもrhSema7AとTNF-αで刺激した細胞で、IκB-αの分解とERKのリン酸化を促進する傾向を確認した。現在、ELISA法での再現性を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度実験結果でSema7Aの歯髄細胞に対する基本的な反応と、歯髄細胞の炎症反応における影響をELISA法で検討してきた。歯髄細胞を炎症性サトカインTNF-αで刺激することで、刺激した細胞培養上清中に含まれるIL-6、IL-8の量が増加し、rhSema7AとTNF-αで刺激を行った細胞群ではTNF-α刺激によって産生されたIL-6とIL-8の量が増加傾向を示した。そのため、歯髄細胞での炎症反応時に、Sema7Aが炎症促進因子として機能する可能性について検討していた。しかし、細胞培養中の炎症性サイトカインの含有量は減少しないが、明らかな促進機能が未だ再現性が得られない状態である。そのため購入した歯髄細胞での検討や、石灰化能の有無による反応の差について検討しているところである。再現性が確認されたら、Western Blotting法でIκB-αの分解とERKのリン酸化についても改めて検討する。また同時に、歯髄細胞におけるSema7Aの機能が、炎症反応中での炎症促進ではない可能性も考慮に入れて、別の機能についても検討する必要があると考えている。 そのため2020年度はこれまでの実験系に加え、歯髄細胞に発現しているSema7Aの阻害剤と歯髄細胞の細胞膜に存在するSema7Aの切断酵素を用いた実験、現在進行中である石灰化に対する影響も検討を行う予定である。その後、in vivoの実験系での影響を検討していく。また、これらの結果をまとめ、積極的に学会発表や英文雑誌への投稿を検討する予定ある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の実験ではin vitroの実験系を中心に実験を行った。細胞培養、ELISA法、Western Blotting法など、既存の試薬、材料も使用できたため、新規の購入分を抑えることができた。また、再現性が十分得られないことから、使用する試薬、材料に大きな変化がなかったことも使用額が少ない原因の一つである。 2020年度は、コロナウイルスによる研究の制限と研究室の移転を控えているため、6月までは実験の進行に支障があると思われる。しかし、それ以降に早急に再現性の確認し、現在検討中であるSema7Aの阻害剤やIL-1βやLPSなどでの炎症刺激でも検討する予定である。また、歯髄細胞も購入した細胞の使用も検討している。方向性が決まり次第in vivoの実験系も進める予定である。
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